#23 ハーブを学ぶ、癒し空間。
「近江おごとハーブガーデン」で心身を整えよう

木々のざわめき、鳥の声。大津市雄琴の恵まれた自然と寄り添うようにひっそりとたたずむ「近江おごとハーブガーデン」は、2016年、ゆるやかに開園しました。ここではさまざまな学びを通してハーブの活用法や可能性を知ることができます。人々の心と体を癒すハーブの力、そしてその魅力について、日本ハーブ研究開発機構代表・植物療法士の山本真理さんにお話を伺いました。

 

 

私たちにとって地球上の緑はすべてハーブ

独特の心地よい香りのするものが多いイメージのハーブ。“そもそもハーブとそうでない植物との違いに明確な定義はあるのか-”。返ってきた山本さんの回答に、筆者は少なくない衝撃を受けました。

 

「ハーブと野菜・果物に境目はないんです。」

 

ここのスクールの一番初めの授業では「ハーブと聞いて思いつく植物を書き出してください」と生徒さんによく投げかけるそうで、みなさんだいたいはカモミールやミント、ラベンダーなどを書いてくれるとのこと。

 

「もちろんそれらはハーブで正しいのですが、『ハーブ辞典』という本を見るとトマトやジャガイモ、キャベツ、マンゴーとかペンペングサとか、全部が載っているんです。ハーブと野菜・果物に境目はないということ。もっと言うと、道を歩いていて雑草だと思えばその人には雑草だし、ハーブだと思って摘み取って使う人にはハーブとなります。私たちは『地球上の緑はすべてハーブ』だと捉えて過ごしています」

 

ここのガーデン内には150種以上のハーブがあります。そのうち苗や種から定植を行ったのは60~70種ほどで、それ以外は自生しているものだそうです。

 

「例えば雑草のイメージのあるペンペングサは、春の七草でいうと『なずな』、ハーブ好きの人にとってみれば『シェパーズパース』という名前で知られています。そして除草剤をかけてもなくならず人から嫌われがちなスギナは『ホーステイル』と呼ばれ、実は、めちゃくちゃ良いハーブなんです。以前は全部お金を出して輸入までしていたのに、ここに来たらたくさん生えていたので“もう買わんでいいわ”と思いました(笑)」

 

いきなり目からうろこ。身近な草花のなかにも身体に良い作用をもたらすものがたくさんあるのだそうです。図らずも、ハーブ講座の初級編を受講することができたような気がしました。

 

 

自然の中に身を置く、癒しの空間

オープンは2016年の2月、草木が勢いよく芽吹く前のとても寒い時期だったそうです。

「2月というと毎年そうなんですけど、茶色の山で何も見るものがなくて。せいぜいちょっと大きくなってきたミントとかがあるだけなんですよ。なんでこんな何もないさびしい時期にオープンなのかなって、正直今でも疑問なんですけど(笑)」と冗談めかして振り返る山本さん。

 

もともと大阪で「緑と香りの学校Tiara」を運営していた山本さんに現在のオーナーが声をかけたところから、ガーデン設立の話が進みます。

「滋賀県にハーブガーデンを作るとなったら手伝ってもらえるかという打診があって。当時は大阪に住んでいたので『遠いから週に1,2回だったら手伝いに行けるかも』みたいな返事をしたのですが、そしたら『どうやら手伝ってくれる人がいるらしい』と。オーナーには他にもいくつかの構想があったようですが、これなら叶いそうだということでハーブガーデンになったと聞いています」

 

そんなオーナーが目指したのは、ハーブを見て癒されるような空間づくりです。

「ストレス等で心が病んでいる人などがハーブとか自然の中に身を置いて、ちょっと癒されたり元気になったりする空間になればということで作り上げてきました」

 

丘の上に立地するこのガーデンは、実際に癒し空間として抜群のロケーション。ガーデンにいると、植わっているハーブの後方にはびわ湖を臨むことができます。山本さんも「全然見ていて飽きなくて、今でもいいなと思っています」と言うほど。自然な木陰があって風通しも良いため、気温以上に涼しく感じることもあるそうです。

 

 

気軽なものもしっかり目もOK!えらべる学びのコース

 

ガーデンのオーナーは、この場所を単なるレジャー目的地にはしたくないとも考えました。シートを持って来てお弁当を広げてというところではなく、学びの要素を得られる場所にしたかったそうです。スクールをしたり、ワークショップをしたり。山本さんが得意とする分野ということもあり、設立以来一貫して「学びの場所」であることを意識し取り組んでいらっしゃいます。

 

ワークショップは随時受付をしています。“こんなところがあるからワークショップして帰ろう”というような、旅行に来た方がその日のノリでされることもよくあるそう。予約が入ったらその時間は打ち止めとして、基本的には1時間1組限定で行います。

 

「ワークショップで通年できるものとしては、まずスプレー作り。そのスプレーが虫よけとかマスクスプレーとか消毒とか、目的や時期によって変わったりします。そのほか、お料理で使うハーブソルト作り、ハーブビネガー作り、ハーブローション化粧水作り。この4つが常設のメニューでやっているものです。」

 

気軽に参加できるワークショップがある一方で、学びの要素をより強くしたスクールとしての講座も行います。以前に山本さんが吹田市でやっていた「緑と香りの学校Tiara」を、引き続きハーブガーデン内に間借りをするような形にて運営しているそうです。

 

「言葉を使い分けているのですが、ワークショップはちょっとリーズナブルな価格で体験的にできるもの。講座はもうちょっと学びの要素が強くて、受講料も変わります。内容は、石鹸づくり講座や植物療法士の養成講座などです。大阪のときは他の協会の資格取得を目指すような講座が主だったのですが、滋賀に来てからは資格と関係のない、ハーブの育て方や使い方などの講座が中心となりました。場所は変わりましたが、月1回わざわざ通ってくれるような大阪時代からの生徒さんもいらっしゃいます。」

 

ハーブが好きな人、学びを求める人が多く集うハーブガーデン。
「お客さんからは、すごく敷居が高いとかなんか怪しい施設みたいだとかよく言われます(笑) 入園料があるから余計に入りにくいみたいです。ハーブが好きな人に来て頂けるのはある意味でオーナーの狙いではあるのですが、それだけでは私たちもおもしろくないので、『なんかちょっと興味あるけど…』という人にもハーブの世界にはまってもらえると嬉しいなと思って。」

 

ぜひ気軽に来てくださいねという山本さん。SNSなどでの情報発信も精力的に行い、少しでも入りやすい雰囲気が伝えられたらと話します。

 

 

ガーデン外にも波及するハーブの発展的かかわり方

 

近江おごとハーブガーデンでは、「おごとホームファーマーズ」という農業へのアプローチも行います。

「『医食同源』という言葉があるように、やっぱり食べ物で自分たちの体がつくられている以上、口に入れる物にはこだわりたいという想いが根底にあるんです。かかりつけ医のようにかかりつけ農家さんがいれば安心であるし、農家さんも嬉しいのではいうところから、ハーブガーデンの農業の活動方針として取り組んでいるものです。」

 

地元農家との関係性を構築する目的で始めたものだそうですが、次第に“自分も農業をやりたい” “畑や田んぼを持ちたい”という方が参加者の中で増えてきたといいます。まだ構想段階だけど、と断りつつも、今後は就農サポートができるようになればという想いもあると山本さん。

 

そしてまた積極的に取り組んでいるのがガーデン外での活動。

ここ雄琴地区から少し山間に入った大津市千野にある「月子茶屋」は、もとあった空き家を活用。千野地区には元三大師の母・月子姫を祀る安養院妙見堂があり、この千野を起点とした地域活性化を図る“乳野プロジェクト”の一環として2020年7月に始動しました。「オーガニックで地産地消」「できることから自給自足」を合言葉に、使う食材にはとことんこだわったランチを提供しています。

 

他の事業者さんとかかわる機会も多いのだそうで、「花街道さんとの『バルネオフィトセラピープラン』もそうですし、100%大津市産の原料でつくった近江麦酒さんの『THE LOCAL』というクラフトビール、O’PALさん企画の地域発見旅『じてんしゃでゆく』でのコラボなど、継続してどんどんと増えていっています。コラボレーション企画や商品開発など、どれも本当に楽しくさせて頂いていますね。」と山本さんは話します。

 

また、ガーデン主催にて「新月ウォーキング」「満月ウォーキング」といった自然を感じながら気持ちを浄化するイベントを不定期で実施。とくに新月のほうは人気で、すぐに予約で埋まってしまうことも。

 

「ずっと継続していくことで親しくさせて頂く地域住民の方も増えました。特に月子茶屋を始めてからは食材が必要となることもあって、野菜を提供してくださったり育てているものを教えてくださったりしてとても助けて頂いています。」

なによりも、山本さん自身が楽しみながら取り組んでいるということがお話の端々から窺えました。

 

 

“令和版の修道院”にしたい!

 

近江おごとハーブガーデンは人の心が癒される場所。山本さん自身、大阪から来た頃は不安に思ったくらい、ここは時間がゆっくりに感じるといいます。

「それだけ人も空気感ものんびりしているのではないかなと思います。都会から旅行に来た方もリラックス・リフレッシュできるのでは。緑の面積も大阪とは大違いですし、びわ湖も湖西の山並みの風景もすごく好きです。」

 

新しい講座を増やしたり植栽のデザインも変化させるなど、学び・癒しの空間としてさらに深みを増している近江おごとハーブガーデン。山本さんの目標は、このガーデンを“令和版の修道院”にすること。中世の「僧院医学」になぞらえ、多くの人々の支えとなれる場所を目指します。

 

「中世の時代は修道院の方たちがお医者さんに代わって医術を身につけ、人々を救う役割を果たしていました。もちろん私たちに医療はできないんですけど、体調を整えたり維持したりということはハーブでもできるはず。最近はコロナなどもあって健康意識が高まり、不安も増えた中で、眠りが悪いとか便秘がちだとかいうようなちょっとした不調もあると思うんです。病院に行くほどではないかもしれないけど、ちょっと体を良くしたいというときにアドバイスが受けられる。やっぱり植物療法士の養成スクールをしていることもありますし、そういった令和版修道院のようなところにしていきたいです。」

 

自分を取り戻したり、充電したり。あなたの五感で、植物のある豊かな暮らしを感じてみてはいかがでしょうか。

 

Information

近江おごとハーブガーデン

滋賀県大津市雄琴2丁目18-1Google Map
開園時期:4月~11月(12月~3月は休園)
開園時間:10:00~16:00
 ※入園については完全予約制
TEL:077-572-8880

ホームページ / Instagram / Facebook / Twitter / オンラインショップ

 

※上記は2023年1月1日現在の情報となります。

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