#48 本気でオススメしたい菜たね油が東近江にある。
生産の背景にある「菜の花エコプロジェクト」とは?
さらっとした舌触りに、キラリと光る黄金色。菜たね油「菜ばかり」は、東近江市で栽培期間中農薬不使用で育てられた菜の花の種(菜種)100%の油です。昔ながらの圧搾方式で丁寧に搾った一番搾りは、天然由来のコクが豊かで、揚げ物に使っても、そのままドレッシングにしても味わい深い……。
そんな「菜ばかり」は、「あいとうエコプラザ菜の花館(以降 菜の花館)」で作られています。ここでは、東近江市で生まれた地域資源循環の取り組みである、「菜の花エコプロジェクト」が行われています。
菜の花を中心に資源が循環する仕組みの拠点、「あいとうエコプラザ菜の花館」に行ってきた
4月下旬、東近江市を訪れると、一面に咲き誇る黄色い菜の花畑。いくつかの菜の花畑を通って菜の花館に到着。菜の花館は、東近江市の資源循環型の地域づくりを進める拠点施設。ここでは菜たね油「菜ばかり」の他にも、米のもみ殻を炭化した「もみ殻くん炭」やリサイクルせっけん「愛しゃぼん」、そしてBDF(バイオディーゼル燃料)などさまざまな製品が作られています。菜の花館の指定管理を東近江市から受け、運営するのはNPO法人愛のまちエコ倶楽部(以降、愛のまちエコ倶楽部)です。
「愛のまちエコ倶楽部は、『菜の花エコプロジェクト』を進めるために生まれました。地域の豊かな資源と環境を未来へ引き継ぎ、持続可能な地域づくりを目指しています。また農村資源を生かした農業体験や農家民泊のコーディネートなどの地域活性化にも取り組んでいます」と説明してくださったのは、愛のまちエコ倶楽部の事務局長・伊藤真也さん。
愛のまちエコ倶楽部のスタッフは、20〜40代の6名。出身地も地元の人から千葉や奈良など、前職もそれぞれ異なるメンバーで構成されています。伊藤さんも、前職は東京でイタリアンレストランのマネージャー職に就いていたそう。
「最初のきっかけは、東近江市にある道の駅で見て、菜ばかりを購入したこと。その菜たね油の美味しさに、国産でこんな油ができるのかと驚いたんです。それからもっと食の現場に近づきたい、菜たね油について学びたいと転職しました」と伊藤さん。食への探究心がキッカケでしたが、愛のまちエコ倶楽部の活動を通じて、次第に環境問題にも関心が深まってきたといいます。
さて、「菜の花エコプロジェクト」とは、具体的にどんな取り組みなのでしょうか?
「大きな特徴としては、菜の花を通じて地域資源が循環しているところ。この地域で育てられた菜種から菜たね油が作られ、搾油で出た油かすは有機肥料に。そして、食用油はおいしく食べてもらい、料理で使った後の廃食油を回収し、BDF(バイオディーゼル燃料)やせっけんにリサイクルし、地域で利用します。地域の問題は地域で解決しようと、市民と行政とNPOが共につくり上げてきた取り組みなんです」
なんと現在この地域では、菜種が約15haも栽培されているそう!
「菜種は北海道、九州など全国どこでも作れる作物。プロジェクトの立ち上げとともに、地域の集落営農を中心に、契約栽培を進めてきました。JAよりも高い金額で買い取ることで、農家さんの収入にも繋がるように努力しています。こうして少しずつ、転作で育てる作物に菜の花を選んでくださる農家さんが増えてきたんです」と伊藤さん。表面に出てこない努力が、大きなプロジェクトを動かす下支えになっているのですね。
琵琶湖が赤い……、地域を守ろうとする市民運動から繋がった「菜の花エコプロジェクト」
約20年前に立ち上がった菜の花エコプロジェクト。現在、菜の花館は年間約3000人が訪れる施設になっています。その背景には地域に生じたとある問題があったといいます。
1977年に、琵琶湖で赤潮が発生します。合成洗剤に含まれているリンが原因のひとつだとわかり、女性団体や主婦を中心に、洗剤の勉強会を開いたり、合成洗剤に代わるせっけんの共同購入に取り組むようになりました。その後市民を中心に「せっけんを使って琵琶湖を守ろう!」と、リンを含む洗剤の使用をやめて、天然油脂を主原料としたせっけんを代用しようとする「せっけん運動」が起こります。
この市民らの活動が実を結び、1980年には、リンを含む家庭用合成洗剤の使用・販売の禁止条例が施行されます。この頃、東近江市(旧愛東町)でも、廃食油を回収し、リサイクルせっけんづくりが市民グループを中心に始まりました。そして1996年、廃食油からBDFを精製して、町のエネルギーに変えるという画期的な動きにつながってきます。さらに、1998年には食用油も自分たちの地域で作れるようにと、地域で菜種の栽培がスタート。2005年に菜の花館が誕生。「菜ばかり」・「もみ殻くん炭」を製造するプラントも設置し地域資源循環の取組み拠点として活動が始まりました。
今では、地域の学校給食で年に1度、「菜ばかり」が使われたメニューが出されているのだそう。子どもたち、羨ましいぞ〜!
どんな風に作られているの? 工場案内ツアースタート!
そんな「菜ばかり」はどのように作られているのか、菜の花館の工場内を伊藤さんが歩きながら案内してくださいました。館内では、せっけんプラント、もみ殻くん炭プラント、菜たね油プラント、BDFプラントと4つのプラントが稼動しています。
早速、菜たね油「菜ばかり」のプラントへ。まずは乾燥・選別施設。6月、梅雨の合間をぬって地域で育てた菜種を収穫し、菜の花館で乾燥させます。そして菜種以外の花や草の種と選別し、保存します。搾油機で搾る前にタンクの中で種を湯煎して温めます。油は温めることでサラサラになり、搾りやすくなります。種をじんわり温めておくことで、搾った油は黄金色に輝き、味もまろやかになるのだそうです。
圧搾機で種を搾り、原油をゆっくりと2日間かけて静置していきます。その後、ろ布・ろ紙のみを通して仕上げます。最終段階は、全て手作業。一本一本、人の目で色味などを確認しながら、キャップをしてラベルを貼って完成です!
「「菜ばかり」の搾りかすには、まだ油が残っています。薬品抽出法だと、種からほとんどの油を取ることができるのですが、私たちは昔ながらの圧搾製法で、効率は良くないのですが、ありのままの油を搾り続けていきたいのです。だからこそ、搾りかすも資源として活用したいのです。」
搾りかすは米ぬかと微生物資材を加え、発酵させることで、有機肥料になり、市内の野菜畑や奥永源寺の政所茶の肥料として土に還り、また新しい循環が生まれる……。菜種は捨てるところがないと伊藤さんは言います。
さらに、感心したのは、BDFプラント。廃食油から軽油の代替燃料となるBDFを製造しています。廃食油に薬剤を入れ、熱を加えてグリセリンと分離させます。そして不純物を取り除いて完成。トラクターやディーゼルトラックなど、BDF100%で走行できるのだといいます。
「こちらのBDFは、地域のイベントで使われる発電機に100%使用したり、地域で走るコミュニティバスに軽油と5%混合して使用したりしています。一般的に軽油を使用して走るよりも、約70%CO2削減できます。東近江市で年間約3万リットルの廃食油を回収し、BDFに精製することで、地域エネルギーとして利用されており、100トン分のCO2を削減することで、地球温暖化防止に貢献しています。今後は農業用の燃料に活用していきたいと考えていて、二酸化炭素の量を減らしていく、環境に良い農業を目指せるのではないかと模索しているところです」
菜の花を全部無駄なく使い切る。地域循環モデルプロジェクトを見に行こう
まさに地域の問題を地域で解決する、資源循環の仕組みがつまった菜の花館。市内学校をはじめとした多くの教育機関や研究機関、行政や企業からも注目され、視察も後が絶えないという状況にも頷けました。
お話を聞きながら、この活動が20年程前から実践されていることにまず驚きました。そして忘れちゃいけないもうひとつの驚きは、やっと時代が追いついてきた「菜の花エコプロジェクト」の取組みから生まれた「菜ばかり」のすこぶる美味しいこと!
(写真提供:NPO法人 愛のまちエコ倶楽部)
「3品種の菜種を育て、刈り取りの時期をずらして収穫。早く育つ品種や育ちが比較的ゆっくりな品種など、異なる品種をブレンドする点も、他地域の菜たね油との味わいの違いになっているかもしれません」と伊藤さん。東近江市産で栽培期間中農薬不使用で育てた菜種を100%使用し、丁寧に搾られた「菜ばかり」は、香りも風味も抜群で、素材の味を引き立ててくれます。
今回案内していただいた製造過程も自由に見られるので、観光がてら菜の花館に足を運んでほしいとのこと。製造の現場を見学すると、より信頼していただくことができるでしょう。
赤潮という問題をきっかけとして、地域住民の意識が繋がり発展していった、菜の花エコプロジェクト。今では菜の花は、まちの四季を伝える大切な役割も担っています。兎にも角にも、地域と共に生きる菜たね油を、まずは美味しくいただきましょう。