#53 【後編】自然とともに、島の人とともに。
琵琶湖の離島・沖島の“ありのまま”を楽しもう!

滋賀県近江八幡市にある沖島(おきしま。沖ノ島[おきのしま]とも)。淡水湖のなかにある有人島としては日本で唯一という、特異な島です。後編も引き続き、川瀬明日望(かわせ・あすみ)さんご案内のもと巡ってきた、沖島の魅力をご紹介していきます!

 

◆◆前編記事はこちらから◆◆

 

 

新鮮な湖魚を味わう『沖島どんぶり』(湖島婦貴の会)

地域おこし協力隊の任期を終えた川瀬さんは、現在、沖島漁業協同組合に所属し、島での生活を続けています。

「漁師さんたちが見せてくれた琵琶湖の光景はすごく印象的で、一緒にいる時間がとてもおもしろかったんです。なので、この人たちともうちょっと仕事をしていたいなと思って。琵琶湖の魚の料理をしていた関係で漁業組合とかかわることが多かったので、その延長でここにひろってもらいました」

 

そうして川瀬さんの勤め先となった漁業組合には、元気な奥様たちの婦人部「湖島婦貴(ことぶき)の会」があります。港の目の前、漁協会館内で、新鮮な湖魚を使ったランチやお弁当など沖島ならではの湖魚料理を日々提供しています。会を代表して茶谷美百合さんにお話を伺いました。

 

「ここは夫婦船がほとんどなので、夫婦で漁に出て、取った魚を持って帰ってきてここで炊いたりしているんです。大体6人くらいずつ3班に分かれて1週間ずつ交代で、ここにワイワイ寄ったりしているんです」

平成14年に発足した会は現在20名ほど。漁の時間帯は時期によって違うものの、夜に漁に出る場合であれば、朝6時ころに港に戻ってそのまま湖島婦貴の会の仕事をする人もいれば、いったん帰って寝てから仕事に来る人とで分担をするそうです。なかなかのハードワークです…!

 

目の前で揚がってくる湖魚をすぐ使える点が、湖島婦貴の会がつくる料理の一番の強み。

「佃煮や煮つけ、天ぷらとかも入れてお弁当にしているんです。全部ここでとれた魚で、お野菜もそうですしね。お弁当の中身は決まっているんやけど、いろいろ変えながら。ご飯をチラシにしたり、煮付けを鯉にしたり鱒にしたり。琵琶鱒の煮付け、美味しいですよ~」

 

さて、わたしたちはランチをいただくことに。お願いしたのは『沖島どんぶり』。島の恵みが詰まったボリューム満点のお食事です。

「ご飯に乗っているのは、鮎の天ぷらに寄せ揚げです。お造りは琵琶鱒で、おつゆも琵琶鱒のアラでしているんです」(内容は季節により異なる場合あり)

 

やはり鮮度良いお魚が使われるだけあってどれも美味。加えて、甘味と旨味が抜群のお味噌汁も!ここでしか味わえないものなのです。

「味噌も島の伝統で、各家でちょっとずつ味は違います。ここのお味噌はちょっと甘いんです。これを受け継いで私らもやっていますし、子どもらも“買うたお味噌より家のお味噌のほうが美味しい”言うてますね」

 

「ブラックバスもホイルでちゃんちゃん焼きにしたり、フライにしてタルタルにしたりしても美味しいですよ。『じょき(※)』もお弁当に入ったり。ここに来れば、その時期のものや各家庭の味つけのものが食べられます。ときどき寄り合って、みんなで話し合いをして内容を決めています」


※沖島で食される、鮒の刺身の食べ方。皮を剥がずに骨も抜かずに、そのまま包丁で細かく刻む。

 

 

多様なメニューは「みな、美味しいですよ」(湖島婦貴の会)

ひとくちに湖魚といっても、大きなものから小さなものまで多種多様です。モロコごい、沖引き(ちゅうびき)、海老タツベ、刺し網など、いろんな漁法を駆使していることも沖島の漁の特徴だといいます。

「夏場やったらゴリ。朝4時ぐらいには出て、9時ごろまでには揚げて出荷します。冬場は海老とかモロコとかワカサギ、スゴモロコとか。いろんなやつが入ってきます。鮎は4月から8月中頃までですかね」

 

これらの豊富な資源を生かし、湖島婦貴の会はメニュー開発にも精力的に取り組んでいます。代表的なものが、滋賀県の“びわ湖魚グルメ”のひとつとして開発された『えび豆コロッケサンド』です。

沖島名産の“えび豆”が入った人気コロッケが、沖島産野菜と一緒に挟まれたサンドウィッチ。パン以外は100%沖島産という、まさに沖島の味。土日祝限定メニューのため、気になる方はぜひお問い合わせを。

もちろん、サンドしていない『えび豆コロッケ』も食べることができますよ!

(写真提供:湖島婦貴の会)

 

そしてもうひとつ、ここで提供されるインパクトのある料理が、ブラックバスとおからで作る『よそものコロッケ』。近江八幡市内の日本料理店「ひさご寿し」の料理長・川西豪志さんが開発して、レシピを提供してくださったのだといいます。

「ときどき獲れるブラックバスを組合で卸して、加工して。一晩塩にしてサイコロに切って、目方図って塩にして、次の日にミンチにして…。ほで、おからとまぶして、また丸めて。材料も、牛乳とかバターとかも入れますしね。つくるのもけっこう大変なんですよ(笑)」

 

ブラックバスを食べるなんて…と敬遠するなかれ。あっさりと美味しくヘルシーな逸品。美味しく食べられるような工夫と手間をしっかりかけたコロッケなのです。

 

明るい笑顔に生き生きとした声が印象的な、会の皆さん。そもそも、滋賀県内の漁協で婦人部があるのは沖島だけなのだといいますから、「湖島婦貴の会」があること自体がある意味で魅力的でもあります。

「車は通らへんし、のんびりしてるし。お互いこうしてお隣さんとでも親戚や家族みたいなもんですしね。そんなんは嬉しいですね」

 

最後に改めて、茶谷さんに聞いてみました。―ここで食べられる料理で一番美味しいと思うものは?

「ええっ!?…みな美味しいですよ(笑)」

 

いつ行っても、なにを食べても美味しいなんて嬉しい限りです!

 

 

島の素材を生かし、自然を大切に。(ドリームアイランド 汀の精)

続いて、島の北東の方へ進んでみることにします。

その先にあるのは、川瀬さんのおすすめの風景のひとつ。沖島小学校からさらに東へ500mほど進んだところにある「杉谷浜(すぎたにはま)」です。

 

南西向きに開けた小さな砂浜。沖島で浜といえば、ここ。夏には沖島小学校の児童も湖水浴をするのだそうです。静かに波が打ち寄せるさまを見ているだけでも心が癒されます。

 

人家のないほうへ進んできたので、ここで引き返すのかと思いきや「もうちょっと行ってみましょう」という川瀬さん。探検のようになってきました!

 

さらに500mほど進んで見えてきたのは赤い鳥居。

…見覚えがあります!朝、島に向かう船から見えていた鳥居です。

 

ここは「厳島神社」、通称・弁財天。長い階段の先に本殿があります。登るのは一苦労ですが、体力に自信のある方はぜひ。

 

そこから少し戻ってきます。沖島小学校と資料館の中間あたりにあるのが、次に訪れたカフェ&お食事のお店「ドリームアイランド 汀の精(みずのせい)」です。

 

オープンは10年ほど前。天然のものや沖島の木材などを使い、店内は環境に優しくデザインされています。初めはカフェとしてスタートしましたが、次第に魚料理やランチ営業もすることにしたのだそう。身体に優しい食事をモットーに、季節の野菜や果物・湖魚を中心として地元食材を使った料理を提供しています。島で採れる夏みかんなどの果実の加工品、野草茶なども人気です。

 

また、店主の奥村さんがもともと携わっていた仕事の関係で布製品の取り扱いも。自然や肌に優しい天然繊維を中心に、洋服や小物などのオリジナル商品の制作・販売も手掛けられます。

 

「コロナ禍では中止になってしまいましたが、満月の日の演奏会などを不定期で開催していました」と奥村さん。民族楽器の演奏・録音会や漬物づくりのワークショップをおこなったりと、人々が集うコミュニティがここで形成されているのだといいます。

 

「いろんな人々が交わっておもしろいことが起きています。ここが皆さんの交流の拠点になって、いろんな人の、沖島に来るきっかけを作れたら嬉しいですね」

 

目の前に広がる琵琶湖の風景も見事。お父さんたちがお店の前の椅子に座りたくなる気持ちが良く分かります…!

琵琶湖をぼんやり眺めながら、滋味あふれる夏みかんジュースを味わってみるのもおすすめです。

 

 

“おばちゃんの店”で、さざなみを聴きながら(オープンcafé 漣)

最後にわたしたちは、島の西岸側に向かうことに。近江八幡市側に向く港とは逆の方面、北西側に抜けた先の湖岸からは、広い琵琶湖の向こうに比良山地を望むことができます。

 

その西岸をずっと北に進んだところにあるのが「千円畑」。その昔、一区画1,000円で分譲されたことからその名が付いたといいます。

 

その景観はまるでパッチワークのよう。3m四方の畑を各家庭で管理し、野菜や花などが栽培されています。

さらに少し北にはかつての石切り場跡があるそうで、畑のあちらこちらにある石は、その時代の名残を感じるものでした。

 

「やっぱりね、沖島を盛り上げたいなっていう想いと、僕のおばさんや母親に手伝ってもらってなにかワイワイできないかなっていう想いと。“沖島のおばちゃんの店”にしたいなと思って作りました」

そう話すのは、千円畑に向かう道中、西岸に面する島唯一のお店「オープンcafé 漣(さざなみ)」を開いた井上さん。2024年3月オープンのこのカフェでは、風光明媚な琵琶湖と島の風景をのんびりと楽しむことができます。

 

「漣」のメニューはソフトクリームとドリンクが中心。それは、おばちゃんたちが苦労なくできるもの。

「あまり難しくなくできる、全部をおばちゃん目線でやっています。ときどき『お腹減った』という声もあったので、炊き込みごはんも出しています」

 

普段チャーター船「第二善通丸」を運航している井上さんには苦い経験がありました。それは、船のお客さんに、“どこも開いてなかった”と言われてしまったこと。

「最初は他のお店に『今日やってる?』って聞いてたんですよ。そしたらみんな不定休で。間違いなく空いてるよって言えるから、それなら自分でしてしまえ、と(笑)」

 

これまで島の西側には案内看板もなかったそう。

「ただ、景色はむちゃくちゃ綺麗なんですよ。見に来てほしいなっていう想いもありました。東側は対岸も近くて、琵琶湖といっても小さい琵琶湖。でもこっちに来ると大きい琵琶湖になって、比良山系まで一望できます。それに、店の名前に『さざなみ』と付けたのは、常に聞こえる波の音を聞いてもらおうと思ったから。波音と鳥の声だけになるんですよ、沖島って」

 

島の現状と課題に向き合った井上さん。その答えとして出てきたのが、“おばちゃんの店”だったそうです。

「おばちゃんたちが働く場所がないんですよね、沖島って。歳は1年ずつとらはるし今後を見据えて。こういう仕事なら、自分の体力がある限りできるよねって」

 

「みんなすごい元気やから、手伝ってもらいながら店をしようっていうコンセプト。今も『お客さん連れてきたよ!』ってここまで案内してくれたりとか、島の方は皆さん優しいと思いますよ」

 

そうしてできた「漣」の前には、いつも変わらず素晴らしい自然が広がります。夕方も、青空も、雪景色も。

「そこの桟橋に来てもらって、このお店にも寄ってもらえればと思います。沖島観光に何回も来ている人からは『店ができたから、こっち側に初めて来れた。いいところやね』と言われました。一番はやっぱり景色を見てほしいですね」

 

「自動車の音がないってすごいと思いません?」

「漣」でソフトクリームを買い、おばちゃんたちとの会話を楽しみ、すぐそばにある桟橋に立ってみる。通りかかる漁船のエンジン音がときおり聞こえる以外は、本当に自然の音のみ。あなたの五感で沖島の自然の豊かさを感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

あなたなりの魅力を見つけに、さぁ沖島へ!

 

沖島を巡り、お話を聞いて思い知らされたのは、島の皆さん自身が“ありのままの沖島”を心から愛していて、その魅力を島の外の人にももっと知ってほしいと考えていること。

 

協力隊の最後に展示会を開いた川瀬さんも、やはりそう。一貫して、島の魅力を多くの人に伝えています。

「写真や映像や制作物を持っていたので、それらが見られる場を作りたくて。漁師さんが準備に使う広い倉庫の2階を借りて行いました。それと、漁師さんの網でバッグを作ったり、沖島のイラストを描いたりしている方が私以外にもいたので、一緒に展示会をしました。もっといろんな人に見てほしかったですし、島の人にももちろん知ってほしかったんです」

 

「所属は変わりましたが、やることの本質はあまり変わってないですかね。前は個人でしていたことを、漁業組合に入ったことによって、組織で琵琶湖の魚をPRできるようになったという感じ。ひとりでやるか、みんなでやるかみたいな(笑)」

 

魚、風景、伝統、人のあたたかさ、そして暮らし。本当に島全体がひとつの家族のよう。「なんにもない」「自然しかない」と島の方はいいますが、いやいや、小さな沖島にたくさんの魅力が詰まっています。

 

立地条件と自然環境がもたらす独自の文化、そして非日常。琵琶湖の離島・沖島でどんな体験をするかは、あなた次第です。

 

Information

湖島婦貴の会(沖島漁業協同組合)

滋賀県近江八幡市沖島町43(Google Map
営業時間:9:30~17:00
定休日:不定休
TEL:0748-47-8787 または 0748-33-9511

ホームページ

 

※上記は2025年1月1日現在の情報となります。

 

ドリームアイランド 汀の精

滋賀県近江八幡市沖島町346-25(Google Map
営業時間:10:30~17:00(夕食は20:00まで)
定休日:水曜日・不定休(予約制。お問い合わせください)
TEL:0748-47-8848
MAIL:mizunosei88@gmail.com

ホームページ / Instagram / X / Facebook

 

※上記は2025年1月1日現在の情報となります。

 

オープンcafé 漣

滋賀県近江八幡市沖島町216(Google Map
営業時間・定休日:不定(お問い合わせください)
TEL:090-4906-7890

Instagram

 

※上記は2025年1月1日現在の情報となります。

 

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