#30 素材の豊かさを美味しさに変えて。
福祉作業所「工房しゅしゅ」が贈る、滋賀のお気に入りスイーツ

名神高速道路・蒲生スマートICから車で5分弱、東近江市ののどかな田園地帯の中にあるのが洋菓子店「工房しゅしゅ」です。

ひとつひとつ丁寧につくられる、滋賀の恵みをいかした美味しく語らいの生まれるお菓子たち。『湖のくに生チーズケーキ』は、今や滋賀を代表する銘品のひとつになっています。人気の秘密やお菓子づくりへの想いについて、社会福祉法人あゆみ福祉会・上原さんにお話を伺いました。

 

 

福祉会がつくる、究極のお土産

「しゅしゅ」とはフランス語で「お気に入りのもの」という意味。滋賀の素材がもつ豊かさを美味しさに変え、あなただけの“お気に入り”を見つけて欲しいとの想いが込められています。

 

2015年5月にオープンしたこのお店の運営は、地域のなかで障がい者の労働と生活を援助する取り組みをしている「社会福祉法人あゆみ福祉会」がおこなっています。現在は東近江市やその周辺の方々など10代~70代まで、約80名ほどが利用されているそうです。

 

このうちの1つの班が工房しゅしゅで、利用者さんは支援員などのスタッフとともに週に5日、菓子製造に取り組んでいますと上原さんはいいます。

「日々の積み重ねで手慣れた作業であることが多いため、細かい指導を都度することなく、各自の作業に励んでいます。もし不備があるようなら直したり、分からないことがあれば質問してもらったり、といった具合です」

 

このお店も生チーズケーキも、人にやさしい共生社会をめざす、あゆみ福祉会の取り組みから生まれてきたもの。2012年8月より商品の販売を開始し、2013年には観光庁が選ぶ“究極のお土産”に生チーズケーキが見事選出されています。プロジェクト開始からわずか1年あまりでのことですから、その事実だけでも品質の高さが窺えますね。

 

 

生チーズケーキで“きき酒粕”を楽しもう!

 

では、その看板商品『湖のくに生チーズケーキ』をご紹介。
滋賀県内の6つの酒蔵の酒粕を贅沢に使った生チーズケーキで、シンプルからプレミアム、3蔵セットから6蔵セットとバリエーションにも富みます。それぞれの酒蔵の個性を食べ比べすることができ、きき酒ならぬ“きき酒粕”を楽しめる大人気商品です。

 

「特にお伝えしたいのが、商品ができてからもずっと発酵が進んでいくため、作りたてを食べるのと賞味期限前で食べるのとでは味わいが変わってくることです。具体的にいえば、くっつき切っていなかったクリームチーズと酒粕が発酵が進むことでくっついて、角が取れた丸い味になっていきます。他にあまりない面白い部分なのかなと感じます」
上原さんがそう話す通り、日ごと熟成を増す酒粕がその香りと味わいを変化させていくことこそがこのチーズケーキの大きな特徴。賞味期限に近くなるほどまろやかな食感、滑らかなくちどけを感じることができます。

 

また本商品で使われる酒粕は、創業500年に迫ろうかとする冨田酒造さんを筆頭に、100年以上の歴史ある酒蔵のものばかり。山々から琵琶湖に注ぐ伏流水、そして豊かな土地で育まれるお米。これらの恵みを受けた滋賀県だからこそ、美味しい地酒をつくる酒蔵が多いからこそのラインナップなのです。

 

お酒に違いがあるように酒粕の特徴もいろいろだといいます。同じバランス、同じ作り方でどれも美味しくできあがるというわけではありません。味がしっかりしたもの、ほのかな香りのもの。それぞれの酒粕の特徴を捉え、その風味の差を表現する点は大変苦労したところなのだそう。

 

「酒蔵さんから生チーズケーキを知って頂くこともあれば、逆に生チーズケーキからお酒を知って頂くこともあるみたいなので、両方向で認知が広がるいいきっかけになればいいなと思っています」と上原さん。酒粕チーズケーキを堪能したあとは、ぜひその蔵の日本酒も楽しんでみたいものですね!

 

ちなみに、巡る滋賀では『湖のくに生チーズケーキ』で酒粕が使われている酒蔵さんを過去にも紹介しています。合わせてぜひご覧ください!

 ◎「浪乃音酒造」取材記事(#02) ◎「福井弥平商店」取材記事(#17)

 

 

酒粕を美味しく!お父さんのためのスイーツづくり

一見スイーツと結びつきにくくも思える酒粕。なぜ、それをスイーツに使うことにしたのでしょうか。

「プロジェクトチーム内で、“お父さんのためのスイーツ”が作れないだろうか、という意見が出たそうです。その当時はコンビニスイーツもここまで充実していませんでしたし、甘いものに興味を持つ男の人も今ほどにはなかったと思います。だからこそ、お父さんや男性にも喜んでもらえるスイーツづくりという路線に落ち着いていったと聞いています」

 

実は上原さん、商品の認知が広がり始めた当時とある百貨店で販売員をされていたそう。そのときの関係が今のお仕事につながっているのだそうですが、その売れ行きの良さは記憶に新しいといいます。「バレンタインデーに売り出すと、すぐに完売していました。チョコレートが得意でない方にとても好評で、お客様の反応も良く、お昼過ぎには売り切れてしまうほどの人気商品でした」

まさに構想どおり、そして美味しいスイーツである証だといえるでしょう。

 

もちろんその裏では、多くの工夫がほどこされています。

「この商品のクリームチーズはあえて海外産のものを使っています。国産クリームチーズは濃厚さをウリにされている製品が多いと感じるのですが、そうするとせっかくの酒粕の風味が弱くなってしまうのです。ただのチーズケーキにならないよう、どうにか主役の酒粕が際立つようにと考え抜いて製造をしています

 

また同じ酒蔵の酒粕でも、年によってレシピは変わります。お酒がお米の出来や気候に左右されることがあるように、酒粕もやはり違ってくるのだそう。『去年より味が濃いよね』『同じバランスではうまくいかないな』などと、試作して感じた微妙な調整と試行錯誤を重ね、今年もまた美味しい生チーズケーキがつくられているのです。

 

「そもそも“酒粕を使ったお菓子”と聞いて、すぐに美味しそう!とはなかなかならないですよね。日本酒ってお父さんが飲むようなイメージもありますし。お菓子に酒粕を使う、これを魅力的に感じてもらうこともそれなりに苦労し、工夫した部分ですかね」

 

そうして始まった生チーズケーキも、今では、女性を含めた多くの方を魅了しています。

 

 

滋賀の恵みをいかした、しゅしゅのお菓子たち

工房しゅしゅで作られるお菓子・スイーツは15アイテムほど。それぞれの商品で複数の味わいが用意され、色彩とバリエーション豊かに店内に陳列されています。

 

どの商品もおすすめであることは分かったうえで、上原さんに意地悪な質問を。個人的イチオシを聞いてみました。

「滋賀県らしさでいうと『おふらすく』が良いですね。滋賀の丁字麩をお菓子にしていることもそうですが、土山のお茶を使っていたり、アドベリーを使っていたり。滋賀に特化した商品といえます」

 

丁字麩は彦根市にある澤田製麸所さんのもの。フレーバーは5種類あり、滋賀の酒粕、土山のほうじ茶、安曇川のアドベリー、東近江のレモン、安土のハチミツが採用されています(※1)。


※1  セット内容により、5種すべて入りのものと、このうち4種のものとがあります。

 

そして、季節商品で目を引くのが『果実と酒』シリーズです。酒粕チーズケーキと酒ゼリーの上に、旬の滋賀県産フルーツが贅沢にトッピングされた魅力的な商品!

 

「『果実と酒』は季節でどんどんと果物が変わっていきます。柚子、苺、メロン、さくらんぼ、巨峰、シャインマスカット、いちじくなど、全て県産のものを使っています。またチーズケーキと清酒のゼリーは、なるべく果物の産地に近い酒蔵さんのものを選んでいます。よく『そこの水が合う』といわれることから意識して選んでいます」

数量・期間限定のこのシリーズ。ぜひSNSなどで最新情報をチェックしてみてください!!

 

 

利用者の自立をめざす想いが生んだ洋菓子店

あゆみ福祉会は1979年から東近江市で活動を続けています。発足当時は作業所だったものが、1991年の認可を受け社会福祉法人となりました。

 

さまざまな班のある福祉会のなかで、工房しゅしゅの班は『就労継続支援B型事業所』という枠組み。障がいがあって一般の企業では働くことが難しい方などに、雇用契約を結ばない形で就労の機会を提供する機能と上原さんは説明します。

「大きく分けると4つの機能があります。B型事業所のほかに、おうちの代わりに生活をする場所としての『グループホーム』の運営、重度の知的障がいや発達障がいのある利用者・高齢の利用者を中心に作業やリハビリに取り組む『生活介護』、そして『就労移行支援』といって実際に企業で働いて頂くまでの支援をするものです。こういうふうにお菓子の製造をするところもあれば、他の班に行くとペットボトルのラベルをはがしたり、空き缶をつぶしたり、ホテルのメンテナンスをしたり、幅広い作業があります」

 

福祉会で食品事業の計画があがったのは2011年のことでした。それ以前にこの分野に取り組んだことのないなかでの初進出には、どのような想いがあったのでしょうか。

 

「まず、しゅしゅを始めるにあたって出てきたのが工賃のことです。B型事業所で作業される方の月々の工賃は大変低く、なかなかそのお金で自立して、例えば一人暮らしをしたいなとか続けて就労していこうとか、到底思える金額ではない(※2)。ですので、障がいのある方が自立していける作業所を自社でつくっていけないか、と。なかでも、みなさんが興味を持って頂きやすい食品事業が良いのではというところから始まりました」


※2  就労継続支援B型の作業の対価は「工賃」という名目で支払われます。「雇用」ではないため最低賃金の適用はなく、令和3年度(2021年度)の全国平均工賃月額は16,507円(厚生労働省HPより)。

 

しゅしゅでは工程を細かく分解し簡素化することで、利用者が作業しやすい工夫をしています。また、徐々に難しい作業へとステップアップできる環境を提供することで、働く意欲や自信を生み、利用者の自立に繋がるところまでを目指しています。

 

「利用者の皆さんができる仕事を考えるのではなく、通常の洋菓子を作る過程にどうすれば彼らが携われるかという考え方です。どの商品に関しても、“誰だったらこういう作業ができるな”とか、“こういう工程であれば誰々が得意だよね”とか、そういうかかわり方をしています。一般の菓子店や洋菓子屋さんと同等に見てもらって、かつ食べて満足してもらえるような商品づくりを意識しています」

 

滋賀の魅力を多くの人に知ってもらい、地域の人とともに成長していきたい。人にやさしい共生社会をめざし、地元の雇用も創出する。福祉会の想いと取り組みの形が「工房しゅしゅ」なのです。

 

 

滋賀の美味しい魅力をこれからも

百貨店ですぐに完売になるさまを上原さんが見ていた当時に比べ、現在は製造規模も大きくなっているそう。安定的につくれるようになったことで販路も広がり、さらに生チーズケーキの認知も広まることとなりました。「『滋賀のお土産で調べていたら出てきたので気になってきました』という県外からの方や、逆に県内の方は『県外の方に渡すためのお土産として』と選んで頂いたりします」

 

インターチェンジから近いこともあってか、大阪・名古屋からのお客様も珍しくないそう。上原さんによれば、約半数くらいは県外の方なのでは?とのことです。

 

バリエーション豊かなお菓子が並ぶ工房しゅしゅ。期待を込めて、今後の展望についても伺ってみました。

「季節商品を楽しみにしてくださる方も多く、いろいろと計画しています。滋賀でマンゴーを育てているというのを見たことがあるので、できるか分からないですけど機会があればチャレンジしたいなとは思っています」

 

また、「有難いことに、『うちのお酒でもなにかできないですか』と酒蔵さんからお声をかけて頂くこともあります」とも。生産ラインや作業の幅の観点からなかなか難しいのが正直なところと上原さんはいいますが、2022年には長野の酒蔵さんとのコラボスイーツが一度実現しているので、いつかまた、新しいコラボ商品が出てくることがあるのかもしれませんね!

 

「今でもときおり『どこで買えるの?』という問い合わせがあります。利用者が一生懸命に作った商品でもありますし、いろんな方に召し上がって頂くため、これからもお客さんとの接点をできるだけ増やしていきたいです」

 

Information

工房しゅしゅ(社会福祉法人あゆみ福祉会)

滋賀県東近江市上羽田町786-1Google Map
営業時間:10:00~18:00
定休日:月曜日・木曜日(祝日の場合は営業)
TEL:0748-20-3993

ホームページ / Instagram / Facebook / オンラインショップ

 

※上記は2023年7月1日現在の情報となります。

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