#36 近江牛がもっと好きになる!
近江牛専門店が始めた複合観光施設「千成亭ぎゅ~じあむ」で体験できること
「ナイスとぅ〜ミートゆー」と笑顔で出迎えてくれたのは、「千成亭ぎゅ~じあむ」の店長・橋本裕史さん。滋賀彦根の近江牛専門店が始めた複合観光施設「千成亭ぎゅ〜じあむ」を訪れました。店長さんだけでなく、施設自体にユニークが詰まっているこの施設には、近江牛の歴史がわかるミュージアムも併設されているんです。
食べたり、学んだり、楽しんだり、近江牛を身近に。
滋賀県が誇る高級ブランド肉・近江牛。日本三大和牛として、神戸牛、松阪牛と並び、中でも400年以上の歴史があるお肉です。
1957年に創業した千成亭が力を入れているのが、独自の肥育方法と精肉技術。肉の隅々に細く入ったサシは、千成亭の柔らかいお肉の特徴で、すき焼きやしゃぶしゃぶでいただくと、そのとろけるお肉の甘さに病みつきになること間違いありません。
(写真提供:千成亭ぎゅ~じあむ)
2022年10月に誕生した「千成亭ぎゅ〜じあむ」は、千成亭初の複合観光施設。琵琶湖の東側にあり、滋賀県の湖東地域にある西明寺・金剛輪寺・百済寺の3つの天台宗寺院のある「湖東三山」と呼ばれる寺院巡りの旅路の途中にあります。
1階はミュージアムと物販コーナー、フードコート、レストランがあり、2階は約100名の団体客を収容できる大広間「ぎゅ~じあむホール」が併設されています。ある和食レストランが営んでいた施設が、コロナ禍で廃業。その場所をそのまま引き取り改修して、現在の形でオープンする流れとなったそうです。
「ここ甲良町の地は、初代社長の祖父が商いを始めた場所。ルーツのある縁の地で店を構えられたことはとても感慨深いです。精肉店からスタートした千成亭は、飲食店舗を増やしてきましたが、この規模の施設は初。近江牛の魅力をより深く伝えるために、近江牛のメニューを提供するだけでなく、近江牛の歴史がわかるミュージアムコーナーも充実させています。食べたり学んだり楽しんだり、色々楽しめる施設です」と橋本さん。
1階のフードコートでは、近江牛丼や近江牛しゃぶしゃぶうどん、近江牛トロ握りなど、気軽に食べられる料理が単品メニューが揃っています。一方のレストランでは、近江牛専門店千成亭ならではの御膳メニューを用意。すき焼き鍋昼膳やしゃぶしゃぶ御膳など個室の落ち着いた空間でゆっくりいただくことができます。
近江牛をふんだんに使った贅沢な牛丼
熱々のお出汁をかけていただく近江牛しゃぶしゃぶうどんと、鮮度が良いから味わえる近江牛の握り寿司
編集部のイチオシは牛丼。とろっととろける口当たりに、近江牛の旨みと甘みが絡みつく……よくある牛丼とは格段に異なる、まるで別の食べ物……!こんな牛丼を初めていただいたという感動がありました。
2階では大規模会場でパーティメニューがいただけたりと、用途によって使い分けられるのも施設の大きな魅力です。
近江牛の今昔が一挙公開! ミュージアムで紐解く歴史
なぜ近江牛が食べられるようになったのでしょうか?その理由を歴史から紐解いているのが、1階のミュージアムコーナーです。
「近江和牛の飼育は、約400年の歴史を持っています。江戸時代・元禄年間より彦根藩主から代々、将軍御三家へ『養老の秘薬』として牛肉の味噌漬けが献上されてきたことが始まりです」と橋本さん。
江戸時代に第5代将軍・徳川綱吉が生類憐れみの令を出しました。肉を食べることが禁じられる中で、どうにかできないか、薬としていただくのはどうかと、味噌漬けにして食べていたのはお寺の人だったそうです。その旨さが江戸まで伝わり、“薬”として重宝され、中山道を経て江戸まで運ばれていたそうです。そう、忠臣蔵で有名な大石内蔵助も弥兵衛に肉を送った記述も残されています。
この近江牛の味噌漬けは、この度千成亭で再現しています。肉を秘伝の西京白味噌に漬け込みじっくり熟成させることで、酵素の分解により軟らかくなります。
西京白味噌といえば、光沢のある淡黄色、ほんのり甘い香りとまろやかな風味が特徴です。「焼いていただくと、甘い口当たりが広がりますよ」と橋本さん。千成亭に勤める以前は飛騨牛のお店で勤務していたという、お肉に詳しい橋本さんが言うなら間違いないでしょう。
他にもミュージアムには、老若男女が楽しめるような仕掛けが沢山。牛肉の部位がパーツになった「お肉パズル」や、おすすめのお肉の部位と人生を占ってくれるくじびき「おにくじ」など思わずくすっと笑ってしまうような内容。
また物販コーナーには、霜降り牛がプリントされた「お肉タオル」やナイストゥミートユーとダジャレ満載の「お肉Tシャツ」なども充実の品揃え。お土産アイテムとして海外の方にも人気なのだそうです。「近江牛を身近に感じてもらうために、さまざまな工夫を凝らしています。子どもにもウケるんですよ」
こだわりは、3歳の未経産牝牛。肉の柔らかさに自信あり!
千成亭の牛肉のランクは、最高品質のA5ランク以上。自社牧場での育て方にもこだわりがあります。
近江牛はもともと、農耕に使われていた但馬系の牛を、豊かな水と自然、良い肥料のあるこの地域で肥育させた歴史があります。琵琶湖の内湖を干拓した農業地・大中が舞台。但馬系統の流れを汲む血統の良い仔牛を導入してから、耳にlotチップをつけて24時間の体調管理を徹底しており、収集したビッグデータを解析し、発情兆候や疾病、起立困難な牛を検出するなど、注意深く見守っています。
(写真提供:千成亭ぎゅ~じあむ)
また、こだわりは牛に与える食材へも。
餌には麦、大麦、とうもろこし、麦芽など澱粉質のものが6種類以上与えられています。近江牛たちは一頭当たり7平米とかなりゆったりした空間の中で過ごし、寝床は国産おがくずを使用しこまめに交換されています。臭いがこもらないように配慮するなど、近江牛たちのストレス軽減に努めています。そうする事で食欲を落とさず健康な牛に育っていくのです。牧場では音楽も流れているそうですよ。こうして、30ヶ月以上かけてじっくり育てていきます。
千成亭のお肉へのこだわりについて、橋本さんが熱く語ります。
「千成亭のこだわりは、3歳の未経産牝牛のみを厳選しているところ。これは千成亭の初代会長から変わらず続けていることです。肉質の旨味は逸品で、噛まなくても食べられるくらいの柔らかさ。ぜひしゃぶしゃぶで確かめていただきたいです。ヒレステーキも自慢です。牛肉の最高級と言われる細長い形状をした牛のヒレ肉・シャトーブリアンという部位がありますが、近江牛のヒレ肉は、すべてシャトーブリアンじゃないかと思うくらい柔らかいですよ!」
近江牛のこれまでとこれからを
現在、千成亭には240棟の牛舎がありますが、今後更に増える計画もあるそうです。その理由は、世界への輸出の増大。日本だけなく、近江牛の魅力が世界に広がっているのです。「近年、日本だけでなく、海外の方も近江牛に高い価値を感じてくださっています」
オープンしてから約1年。地元の自治体の会合や旅行客の団体など、幅広いジャンルの方が千成亭ぎゅ~じあむを訪れているそうです。「コンテンツもまだまだ進化途中です」と橋本さん。「今後は近江牛の手作り加工、近江牛のソーセージ、豆腐の手作りなど、自分で作って食べる体験型のアクションを行っていく予定です。乞うご期待ください」
千成亭のキャッチコピーに「風土はFOOD!」というものがあります。この土地で育った牛とその歴史を大切にしていきたいという思いが伝わってきます。
彦根周辺で“薬”として密かに食べられるようになり、日本各地に広がっていった近江牛。その魅力は、肉の美味しさだけではありませんでした。知る・食べる・体験する、さまざまな角度から近江牛を楽しめる千成亭ぎゅ〜じあむに、一度足を運んでみてはいかがでしょうか?