#38 3つの顔を持つ「長濱浪漫ビール」。
愛されるビールと、世界を目指すウイスキーと、それを楽しむレストランと。

びわ湖畔の街・⻑浜に佇む「⻑濱浪漫ビール」。クラフトビールメーカー・ビアホールレストランとして創業したのち、2016 年からはウイスキーづくりもスタート。⽇本⼀⼩さなウイスキー蒸溜所「⻑濱蒸溜所」として知名度も上昇中です。

そんな、地元から世界までを広く見据える、⼩規模ながら⼤胆な「⻑濱浪漫ビール」の挑戦に迫ってきました!

 

 

長年愛されてきた「ビール」と「レストラン」

 

今から約30年ほど前、日本国内でクラフトビールブーム(その当時は“地ビール”と呼ばれていました)が起きました。1994年の酒税法改正を受けてのことで、全国的にビール醸造所が爆発的に増加。長濱浪漫ビールができたのもちょうどそのころでした。

「近畿の中でも創業は早かったと伺っております。伊吹山の名水が生んだこの環境で長浜を盛り上げたいという一心から、ビアホールレストランとしてスタートしたのが1996年です」

そう教えてくれたのは、ウイスキーチーフブレンダーの屋久さん。

その後2000年代には全国のクラフトビール醸造所も減少傾向、ブームは終息へ向かったそうです。それでも浪漫ビールは、地元や関西圏を中心に着実にファンを増やしていきました。

 

「長持ちこそしませんが、ここではあえて熱処理をせず提供していますので、その違いは顕著に出ます。酵母は生きたまま。飲み口としてはボリューミー、味わいの骨格はしっかり目です。全国流通というより地元の方や近場の方を中心に楽しんでいただいている印象です」

 

ここで作られるクラフトビールのこだわりは、フードペアリングとして邪魔しないこと。とがったビールというよりも、いかに料理に合わせられるかを考えているそうで、なるほど、ビアホールレストランらしい視点です。

(写真提供:長濱浪漫ビール)

 

定番3種のなかで看板商品といえるのが『長浜エール』。非常にエールらしいボリュームとともに、フルーティーな香りやコクのある深い味わいが特徴。日本地ビール協会主催のビア・コンペティションで部門金賞を受賞している、長濱浪漫ビールの自信作です!

(写真提供:長濱浪漫ビール)

 

続いて『淡海ピルスナー』はキレで勝負するタイプ。のどごしは、乾杯の1杯目に飲みたくなるようなものだと屋久さんは評します。細かい泡に黄金色の輝き、地ビールが初めての方にも飲みやすくおすすめの1本。

(写真提供:長濱浪漫ビール)

 

そして『伊吹バイツェン』。原料には小麦麦芽を50%以上使用。その小麦からくるバナナ香、淡黄色で柔らかく、ソフトでやさしい飲み口が特徴です。クローブ(チョウジ)を思わせるような味わいだとも。

 

「ほかにも限定醸造は年間で4,5種くらいつくっています。季節に合わせつつ、さわやかさを増したピルスナー系や、ポーター・スタウトのような黒ビール系を開発したり。レストランにたくさんメニューがあるなかで、さまざまなビールで楽しんでもらえればと思っています」

 

今や多くの方々に愛される浪漫ビール。それも、作りたてのビールをフレッシュな状態で飲める、楽しめるレストランがあってこそです。滋賀県の地のもの、鮒ずしやしじみ、赤こんにゃく、もちろんながら近江牛も。これらの料理をビールと合わせて楽しむのが、このレストランのなによりの醍醐味。ビール同様にあまり味をとがらせすぎず、ついビールに手が伸びるようなメニューにすることを心がけているそうです。

(写真提供:長濱浪漫ビール)

 

ちなみに、この特徴的な建物は100年以上も前・江戸時代からの米蔵を改装したもの。美味しい状態のビールに合わせた美味しい料理は、ここでないと味わえません!

訪れた瞬間から感じられる、麦の香りと臨場感。昔の蔵の雰囲気に包まれて、いろいろなビールといろいろな料理のペアリングを楽しめるのが「長濱浪漫ビール」なのです。

 

なお、土日は予約を取らないと満席で入れないこともあるそうです。訪れる際はお電話などで空き状況を確認しておくのが良いかもしれませんね。

 

 

3つ目の顔「ウイスキー」の『⻑濱蒸溜所』

「長濱浪漫ビール」という名前ながら、もう一つ外せないのがウイスキーづくり。3つ目の顔にして、今や世界基準といっても過言ではないかもしれません。

 

「2015年にスコットランドで2か所の蒸留所を見学した弊社の代表は、そのコンパクトな造りを間近に見て、『このスペース感であればうちでもできるのでは?』と思ったそうです。もともと開業から20周年となる2016年には何か新しいことをしたいと考えていたところだったので、ウイスキーづくりへのチャレンジが決まりました」

 

ビールとウイスキー、実はつくり方が非常によく似ており、大麦麦芽を粉砕しお湯を加えて麦汁をつくるところまではまったく同じ。ここにホップを加えて発酵させるのがビール、ホップを入れず蒸溜して樽に詰めるのがウイスキーなのです。

つまるところ、すでにあるビール醸造設備が活用できたことが、日本一小さいウイスキー蒸留所「⻑濱蒸溜所」がスムーズに開業できたというわけです。

 

スコットランドの小規模蒸溜所をモデルにしつつ、国内のクラフトウイスキー蒸溜所などから話を聞く機会を得ながら少しずつ形になっていった「⻑濱蒸溜所」。

そして、2020年。あらゆる試行錯誤とあらゆる努力を重ねたフラッグシップが、この年のワールドウイスキーアワードを受賞する快挙を達成。2016年11月の稼働開始から、わずか4年後のことでした。

 

 

「一醸一樽」で仕込む、世界に通用するウイスキー

「日本最小規模でありながらも世界でも評価される、世界に挑戦していけるウイスキーを作っていきたい」
懸ける想いをそう語る屋久さん。その足掛かりになったともいえる、アワード受賞のフラッグシップを改めて紹介してもらいました。

 

「うちは日本で一番リリースの多い蒸留所ともいわれているんですが、そのフラッグシップとなったのが『AMAHAGAN』です。スコットランドの厳選した海外原酒と自社原酒を合わせたブレンデッドウイスキーで、2018年からリリースしています。コンセプトは“将来来たるべきシングルモルトの製造に向け、ブレンド技術を磨くために作り上げるウイスキー”で、海外原酒を使っていることから、あえて“ワールドモルト”と書きました。エディションNo.1から始まり、熟成する樽の違いで、今は定番商品として5種類ほどあります」

 

ウイスキーは熟成する樽の具合や木の種類で味や風味・色が決まります。ワイン樽で熟成することでワイン由来の風味をまとったり、バーボン樽で熟成すればバニラや蜂蜜様の風味が加わったり。特に今、ミズナラの木で熟成するウイスキーが注目されており、海外の方からは「神社を思わせるような、日本を思わせるような香りがする」と評価されるそうです。

味わいが個性的で、モルトの風味・個性が際立っているからこそ、『AMAHAGAN』はアワードをもらえたのではないかと屋久さんはいいます。

 

それと対照的なのが、2019年に登場した自社原酒のみのシングルモルト『長濱』シリーズです。コンセプト「一醸一樽」をもとに、ひとつの樽からそのまま瓶詰めした“シングルカスク”に始まり、2022年10月には、これまでAMAHAGANで磨き続けてきたブレンド技術を結集させた“THE FIRST BATCH”を、満を持してリリース。

 

大手の醸造所とは違い、ここでは1回の仕込みで1樽分しかウイスキーが作れないといいます。だからこそ、ラーメン屋でいう一杯入魂、野球でいう一球入魂のように「一醸一樽」の想いを持ち仕込みを行います。

「クラフト蒸溜所ならではの、フットワーク軽くいろいろなチャレンジができることが長濱蒸溜所の持ち味。コラボレーションもそうです。例えばあるアーティストさんの場合、『この曲をイメージしたウイスキーを作ってほしい』とのオーダーに合わせ、実際に楽曲を聴いたイメージで仕上げました。既存商品の流用でなく、コラボ企画とそのコンセプトに合わせて毎回イチから想いを持ってウイスキーづくりをしています」

 

また、ここでは形状の珍しい個性的なポットスチルを使うことで、他ではなかなか味わうことのできない唯一無二の原酒が生み出されています。長浜の地でじっくりと熟成されたウイスキーは、現在では40近くもの国々に輸出されているとか。

 

「日本一小さい蒸溜所ではありますが、質も生産量も努力を重ね、世界に通用するウイスキーづくりを目指しています」

 

 

地元の方、ファンの方に愛されるものづくりを

 

クラフトビールブームは、創業のきっかけにこそなったかもしれませんが、当時から従業員の想いはいたってシンプル。“長浜市を盛り上げたい”。長くものづくりを続けるなかで、どんな地域とのかかわりが生まれているのでしょうか。

「ビールやウイスキーの醸造においては、“ドラフ”と呼ばれるモルトのかすが出るんです。とてもミネラルが豊富で、畑の肥料や家畜の餌として使えます。ここでは、近隣の農家さんにたい肥として使ってもらっていて、そこで採れた野菜をこのレストランで使うという循環を目指してやっています。栄養がたくさん残っているせいか『出荷できないくらい大きなものができた!』と、農家さんが野菜を持ってきてくれたこともありましたね(笑)」

 

さらに、ウイスキーの熟成庫としては廃校となった近くの小学校を利活用。その場所でイベントを開催したり、新たな雇用を生み出したりすることで、少しでも長浜市を盛り上げられたらという想いがそこにはあります。

 

お客さんとの距離が近いこともこの施設の魅力。“ファンの方にいかに楽しんでもらえるか”ということで、蒸溜所では体験型コンテンツにも力を入れています。そのうちの1つ、蒸溜所見学会は1回6名までで月に3,4回実施。蒸溜所の説明ののち、製造フロアで設備紹介、最後には試飲ができる「学んで、⾒て、飲んで」ができるコースです。

さらにすごいのが、1泊2日で行う蒸溜体験ツアー。粉砕から蒸溜、樽詰めまでをおこなうもので、毎月1回開催・6名定員ですがいつも満員になるほど人気なのだそう。

どちらもホームページで予約受付を行っておりますので、気になる方はぜひチェックしてみてください!

 

2000年代に一度は落ち着いたクラフトビールブームも、ここ数年で再燃中。一方でジャパニーズウイスキー・クラフトウイスキーは、今まさに空前のブームといって良い状況。

その間長浜の味として愛され続け定着した浪漫ビールと、世界へ羽ばたき始めた⻑濱蒸溜所のウイスキーたち。最後に、それぞれのこれからについて伺いました。

 

「浪漫ビールでは、地元産の原料などを使うことにもチャレンジしつつ、変わらず愛されるものをつくっていきたいと思っています。なによりワイワイしながら飲むものですので、皆さんの楽しい場の片隅においてもらえるビールであってほしいですね」

 

「⻑濱蒸溜所は、日本最小規模でありながらこれからも世界に挑戦していきます。生産者の顔が見え、最終的にはファンの方々に愛されるウイスキーを、引き続きつくっていきたいです」

 

ビールにウイスキー、そしてそれを楽しむ場としてのレストラン。それぞれに特徴的な3つの顔を持つ長濱浪漫ビールには、ここにしかないライブ感がありました。

 

Information

長濱浪漫ビール / 長濱蒸溜所

滋賀県長浜市朝日町14-1Google Map
営業時間:11:30~21:00(レストランは昼11:30〜15:00[LO14:30]、夜17:00~21:00[LO20:15])
定休日:火曜日
TEL:0749-63-4300

ホームページ / Instagram(長濱浪漫ビール) / Instagram(長濱蒸溜所) / オンラインショップ

 

※上記は2024年3月1日現在の情報となります。

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