#29 手づくりかまどの幸せごはん!
「ソラノネ食堂」で感じる食の豊かさ

空の音色の響く場所、高島市安曇川町泰山寺。比良山系の山並みに囲まれた小高い丘の上に「ソラノネ食堂」はあります。大津市伊香立の「ブルーベリーフィールズ紀伊國屋」の第2農園、日本人としての食を体感できる施設として2008年5月にオープンしました。
その中心にあるのは“かまど”。『食とエネルギーとコミュニケーション』をコンセプトにしたソラノネには、今だから感じたい豊かさがありました。

 

 

「かまどご飯体験」で豊かな食文化を体感!

 

「ある種“飽食の時代”といわれるように、いま私たちはいろいろな食べ物を口にすることができるわけですが、日本人としての食文化の中心はやはりお米にあると思います。その美味しさをここで改めて感じてもらいたいからこそ、朝からかまどでごはんを炊き上げて召し上がってもらっています。そしてまた、お客さん自身がかまどを使ってごはんを炊く体験を通すことで、より強く美味しさを体感してもらうことになるのではないかと考えています」

そう話すのは、有限会社ブルーベリーフィールズ紀伊国屋 常務取締役の松山剛士さん。

 

 

ソラノネでは、熱効率の良い「愛農かまど」という手づくりのかまどで炊いたご飯を毎日提供しています。食事利用のみでももちろん美味しいごはんが頂けるのですが、イチオシは前日までに要予約の『かまどご飯体験』です。

 

「小さなお子様連れの方、年配の方、カップルなどどのお客さんに対しても、初めに、お米がごはんになる過程のお話をしています。そのまま食べても美味しさを感じないお米があんなにも香り高く甘くて美味しいものに変わるということを、1時間から1時間半をかけてあえて説明するようにしています」

 

米を炊いたらごはんになる。もはや日常的で当たり前のようなことですが、ここでは、より美味しく食べるための労力は惜しまないのだそう。

「『おなか減った』とお子さんに言われながらも、『今日のお昼ごはんは君たちにかかっているんだよ』と伝えると、みんな張り切って頑張ってくれますね(笑)」

 

かまど炊きごはんを提供するきっかけには松山さんのお母様の体験も深くかかわっています。

「紀伊國屋の代表でもある母とこの店の展開を考えていたちょうどそのころ、徳島のある友人宅に母が訪れることになりました。その際友人から言われたのは、『ここでは自分でかまどを使ってお米を炊いてもらっているんです』ということ。“おもてなしの形”としてそれをされていて大変に感動し、母はかまどに夢中になりました。その後、ご縁のあった三重県愛農会の愛農かまどを教えて頂くことになりました」

 

みんなでお米を洗って、かまどの火を眺めて、そして最後には炊き上がった釜の蓋を開けて食卓を囲み一緒にごはんを食べる。このことに豊かさを感じ、心を打たれたといいます。

 

紀伊國屋ではブルーベリーを育てジャムを作ったり、フランス料理を提供したりしていたため、“ここにかまどをどう取り入れることができるか”と悩みもしたそうですが、最終的にはソラノネの中核に据えられることとなりました。

「ただ単に食事を提供する場所ではなく何かを体験する。少しでも豊かさを感じて帰ってもらえるような場所にするため、かまどというものをつくり、それを中心としたお店作りにしようと決めました」

 

 

素敵な空間で食べる“幸せごはん”

ソラノネのある泰山寺地区は、森に囲まれた標高220mの高台にある平地です。実はこの地域、一面の雑木林だったところを戦後に開拓された土地なのだそうで、昭和中期以降、大根の産地として名を馳せました。周囲には広大な耕作地が広がり、どこか牧歌的な雰囲気すら漂う、自然と触れ合うには絶好の場所といえます。

 

「天気の良い日には鳥の声がよく聴こえます。でも、ふと見上げても鳥たちの姿はすぐには捉えられず、ただただ空のうえから小鳥たちの鳴き声が響きわたっているのです」

松山さんの大学時代の友人が多く協力してくれたという店舗づくりですが、名前だけは実はなかなか決まらなかったといいます。やっていることを示すというよりはこの空間を表す言葉がいいのでは―?そんなアイデアから出てきたのが、“空の音色の響く場所”。この素敵な言葉に導かれた店名が「ソラノネ」なのだそう。

 

この場に立つと、本当に清々しく、1日かけてのんびり過ごしたい気持ちになります。
「景観と雰囲気には皆さん大変喜んで頂いているように感じます。シンボルツリーであるイチョウの木を中心としたこの空間で、食事が終わったあともゆっくりされるお客様が多いですね」と松山さん。

 

ここで出されるお米は地元・高島産のものです。針江の農家さんの無農薬有機栽培「ミルキークイーン」と、安曇川の農家さんの低農薬「コシヒカリ」をブレンドして提供しています。

そして水にもこだわるのがソラノネ流。

 

「特に白米を炊く場合は米と水しか使いませんので、お米だけでなく水にもこだわるべきです。私たちは車で5分くらいのところに湧いている水を毎日必ず汲みに行き、調理に関わるものには全てこの水を使っています。一度だけ水を切らしたことがあってどうしても水道水を使わざるを得なかったのですが、蓋を開けた瞬間の香りが全然違っていて『これでは駄目だ』と思いました。それ以来、雨の日も風の日も欠かさず水汲みに行っています」

松山さんは、むしろ一番こだわっているのは水といっても過言ではないといいます。湧き水まではないにしても、おうちでは浄水器を使うなど美味しい水に目を向けてもらえるといいですよと教えてくださいました。

 

そして極めつけがエネルギー源。薪に使うのは高島市朽木でとれる間伐材の杉だといいますから、ごはんに関しては全て地元産のものででき上がるということになります。松山さんは、ちょうどかまどがこの店のコンセプト『食とエネルギーとコミュニケーション』をそのまま表してくれていると考えています。

「地元のお米と水を用意し、地元の木をくべた火を見つめながらみんなでかまどを囲み、湯気が上がって炊き上がったら、最後にみんなでごはんを食べる。大げさかもしれませんが、それが本当の幸せのようにも感じます」

 

 

素材を生かすソラノネのメニュー

 

ソラノネで提供される食事は主に3種類で、メインとなるのは、かまど炊きのごはんと地元の食材を使ったおかずの『かまどご飯セット』。発酵のまち高島らしく、素材や調理法に発酵を取り入れる工夫も重ねています。

 

地元農家さんが育てた作物の美味しさに驚いた経験から、野菜などの素材も高島産にこだわります。

「ここに来て大根を食べたときに、つくる人によってこんなにも味が違って美味しいんだと知り、以来、野菜は地元の農家さんのものを中心に使うようにしています。ここの農地でもつくる野菜と合わせて提供しています」

 

この農園では約1,000本のブルーベリーのほか、15種類ほどの野菜を育てています。いろいろなご縁から野菜づくりは堀場製作所さんにお任せしつつ、その中から一部を分けてもらったりしているそうです。

 

そのほか『カツサンドプレート』『畑の恵みカレー』などのメニューに、ケーキやコーヒー・ジュースといったドリンクがあるなか、取材班が特に強く推したいのは『ブルーベリージュース』! 優しくも濃密なブルーベリーの味わいがダイレクトに感じられる、非常に贅沢な一品といえます。

 

「ブルーベリーは生で絞ったりすると固まりやすい特性があるのですが、うちの場合はジャムづくりをしてきたノウハウを生かして、加熱して火を入れながらどうすれば美味しいジュースができるのかと考えてきました。程よいとろみに凝縮された味と香り。素朴で優しい味わいのジュースをつくることができました」

 

 

ゼロから積み上げ、縁が結んだブルーベリー農園

松山さんたちは、1983年の「ブルーベリーフィールズ紀伊國屋」創業時から滋賀県で暮らしています。これから住んでいく場所を探すなか、のちに創業者となる松山さんのお母様は今の紀伊國屋がある地に立ったとき、『私が生きる場所はここしかない』と直感的に思ったそうです。

 

「母は、以前に聞いたことのあった“摘みたての生のブルーベリーが美味しい”という話を思い出しながら、ブルーベリーの栽培に着手することにしました。今でこそブルーベリー園はいくつもありますが、当初はほとんど栽培の実績がなく、知識のある指導者も多くなかったと聞いています。それでも母はブルーベリーを栽培するんだという強い想いのもと、1冊の本といろんな方の力を頼りにやってきました」

 

琵琶湖を見下ろす小高い山の中腹にある「ブルーベリーフィールズ紀伊國屋」は、ブルーベリーやハーブを育てながら、ジャムや焼き菓子などを販売しています。機会があれば、こちらにもぜひ訪れてみたいですね!

 

創業から約20年後。ソラノネの誕生につながる出会いが、ふいに松山さんに訪れます。
「この場所で畑をされていた方が農業をやめて会社勤めをされており、『いい農地があるので、よければ紀伊國屋さんで使ってみませんか?』とのお話を頂いたのが最初です。私たちとしてもちょうど、伊香立のほかに栽培に良い場所はないかと探していた頃でした」

 

ここの農地は紀伊國屋と比べて約4,5倍の2.4ha、そして幸運にもブルーベリーに適した土壌だったといいます。

「湖西地域は赤土系が多いのですが、ここは珍しく関東地方に多い火山灰性の 『黒ボク土壌』でした。“黒ボク”はブルーベリー栽培に一番向いているとされていたので、まさかこういう場所にその土があるとも知らず、『ここでならブルーベリーも元気に育ってくれるんじゃないか』と農地をお借りすることにしました」

 

 

湖西の自然で感じる“本当の人生の豊かさ”

 

「やはり私は湖西という地域がすごく好きで、山並みや里山、琵琶湖の距離感も含めて、特にこの場所は四季折々いろんな表情を見せてくれます。この湖西で活動している者としては、来て頂く方に地域の魅力を伝えて喜んでもらいたいと考えています」

 

松山さんはさらに、食に限らない、農業の持つ可能性を広げる活動をしていきたいと話します。

「堀場製作所さんとの協働のなかで、オーガニックコットンの栽培にも取り組んでいます。綿ってすごく魅力的で、柔らかく、ぬくもりがあって、収穫していると何とも言えない優しい気持ちになるんです。そして収穫体験などもしながら。この時代の暮らしというものをこれからどう考えていくか。食のことはもちろんですが、もう少し視野を広げて、着るものなどに対しても普段の目線が少しでも変わるような活動をやっていければと思っています」

 

「なにより心地よく過ごして頂きたい、というのが私の願いです」という松山さん。
人と自然を見つめ直す。“本当の人生の豊かさ”を感じられる新たな出会いが、ここソラノネで、これからも生まれてくることでしょう。

 

Information

ソラノネ食堂(ソラノネ KINOKUNIYA)

滋賀県高島市安曇川町田中4942-1(Google Map
営業時間:10:30〜17:00
休館日:木曜日(年末年始休み)
TEL:0740-32-3750
※お食事利用のみの予約は不可

ホームページ / Instagram / Facebook

 

※上記は2023年6月1日現在の情報となります。

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