#18 「和ろうそく 大與」の4代目が伝えたい、
和ろうそくで見つけられる豊かさとは?

灯をともすと風の流れに沿って、なめらかに揺らめく大きな炎。ひとときの静かな時間が流れます。

和ろうそくを作り続けて108年という「和ろうそく 大與」では、伝統的な製造方法を引き継ぎ、国産・天然の植物蝋を100%使用した和ろうそくを生み出しています。4代目当主・大西巧さんは、どんな想いで和ろうそくを作られているのでしょうか?

 

 

伝統製法で作られる和ろうそくを、新しいライフスタイルに

畳の脇に飾られた櫨(はぜ)の実に、昔ながらの風情を感じる店内。「大本山永平寺御用達」の看板に深い歴史を感じます。小指サイズから抱きかかえるような大きさまで、さまざまなサイズの和ろうそくは、繊細な絵ろうそくや鮮やかなバリエーションの色ろうそく、キャンドルタイプのものなど種類も豊富です。

 

1914年創業の「和ろうそく 大與」では、伝統製法を引き継いだ熟練の職人たちの手によって、天然の植物蝋を100%使用したろうそくが1本1本丁寧に作られています。

 

よく比較される西洋ろうそくとの違いは、この原料にあります。和ろうそくは、歴史的に櫨の実が、西洋ローソクは主にパラフィンと呼ばれる石油が原料となっています。植物由来の和ろうそくは、油煙をほぼ発生させず、匂いもほとんどありません。環境にも人の体にも優しいつくりがその魅力です。

 

現在、原料となる櫨の木を育て、実を絞る作業まで行う業者は、福岡と長崎にある2社しかないのだそう。櫨自体の希少性が高くなっているため、原料価格も高騰しています。

「櫨ろうを100%使っているろうそく屋も少なくなっていますが、『和ろうそく 大與』では、櫨ろうを原料とした伝統製法を続けることが使命だと感じています」と話すのは、4代目当主・大西巧さん。

 

和ろうそくは日本では仏事の時だけではなく、生活をともす灯りとして日常的に使われてきました。奈良時代に中国から伝わったのが始まりとされており、江戸時代になって原料となる櫨の木が沖縄から伝わったことで、和ろうそくの生産量は大幅に増加。しかし明治時代に入ると、安価な西洋ろうそく、ガス灯や石油ランプ、電灯が主流となり、和ろうそくの出番は減っていきます。

 

元々主流の使い方だった仏壇がない家も増えている中、和ろうそくを生活から遠いものにせず、新しい形で取り込んでいきたいと考えている大西さん。食事中、入浴中、睡眠中など、現在のライフスタイルに合わせて、和ろうそくを新しく取り入れるためのアイデアを、さまざまな商品に落とし込んで提案しています。

 

 

「hitohito」ブランドで広がる海外での需要

創業100周年を機に、次の100年続けるためにどういうブランドでありたいかを考え、2014年に大西さんが立ち上げたブランドが「hitohito」。人と火の関係をつなぎたいという想いがそのままネーミングになりました。

 

「お米のティーライトキャンドル」が、最初の商品。

「キャンドルの燃える油の匂いが苦手だというお客さんの声から生まれました。和ろうそくというと構えられてしまいますが、もっと手軽に使ってもらえるように、糸芯を採用。最初、和ろうそくの形でないことに葛藤もありましたが、植物で作ることに関してはブレていないと考え直しました。」

 

和ろうそくでの技術を生かして従来の糸芯を太くすることで、炎を大きく明るくすることができます。もちろん匂いもありません。ブロックキャンドル、テーパーキャンドルなど、形状が異なる商品も付随して生まれました。

 

なんと現在このキャンドルたちが売れているのが、欧米諸国。2021年頃からは、生産が追いつかないほどの注文があるのだそうです。

「アメリカに営業に行って知ったのですが、欧米では、どこでもろうそくを売っているんです。雑貨店、手芸店などあらゆるところで。食卓上のキャンドルやクリスマスの文化など、生活の中に溶け込んでいるんですよね。」

 

和ろうそくは、太さや長さによって燃焼時間が細かく異なるのですが、15分間の短い和ろうそくが一番人気なのだとか。ヨガや瞑想(メディテーション)などにちょうどいいのです。また欧米では環境への意識も高く、植物性の和ろうそくは、持続可能な素材を求める方の趣向にもマッチしています。

 

もともと江戸時代から、ろうそくはとてもサスティナブルでエコなもの。「和ろうそく 大與」は今でも、お寺に納めた和ろうそくの残った蝋を買い取り、それを溶かして再利用することで新しいろうそくに生まれ変わらせています。

 

「ろうそくは、やっぱり使ってもらってなんぼ。環境のことを考えることは、未来を考える上でも大切なことです。日本にもこのようなマインドが広がってくれると嬉しいですね。」

 

 

たった1本のろうそくに、多くの人の手が関わっている

 

型入れの和ろうそくは、型に溶けた蝋を流し込み、固まったら抜くというシンプルな作業。しかし型の温度、気温、蝋の温度、湿度、引き抜く時間、冷まし方などを感覚的に掴んでいなければ、形にすることができません。

 

「まずは一つひとつの工程を丁寧に行い、感覚を手と体に染み込ませていくことが、私の仕事におけるスタート地点でした。子どもの頃から両親の働きぶりを見ていて、ひとつの作業にどうしてそこまで手間をかける必要があるのかと、非効率のように感じていました。しかし実際に和ろうそく作りに携わるようになり、その思いが覆されました。1本のろうそくは簡単に出来上がるものではない。多くの工程が重なり合ってやっと1つの形になるのだと。」

 

蝋の手掛けは、均等に蝋をかける必要がある細やかな作業。細いものや太いものなど個体差のあるろうそくでも、蝋の厚みを均一に整えなければならず、難易度の高い作業です。蓄積された経験が必要となる、和ろうそくの製作。「大與」の職人層は厚く、20年選手の職人が今でも活躍しています。正確なものづくりが、「大與」の和ろうそくへの信頼につながっています。

 

それでも、ろうそくはあくまで消耗品であり、日用品。和ろうそくは、生活に寄り添う日用品でありたいと大西さんは話します。

「私たちが作っているものは、植物の蝋でできています。植物を育てるのも人。火を起こすのも人。火で溶かした蝋を、掛けて固めて、一つひとつが手作業の集まり。いずれにしても、人が手を加えなければいけないもの。現代は効率化が求められて、手間がかかるものやめんどくささを避けようとする流れがあるように感じます。人がそこに関わっていること、手間暇をかけることを人が感じられるような社会がいいなと思う。数値では測れない豊かさがそこにはあると思うのです。」

 

人と火のぬくもりを持った「大與」の和ろうそくは、こういう時代だからこそ心地よくも感じられます。豊かさとはなにか。ひと手間ひと手間、人の手で紡がれた和ろうそくを灯して、ゆっくり流れる時間を日常の中で味わってみてはいかがでしょうか。

 

Information

和ろうそく 大與

滋賀県高島市今津町住吉2-5-8Google Map
営業時間:9:00〜17:30
店休日:土日、祝日
TEL:0740-22-0557
MAIL:info@warousokudaiyo.com

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※上記は2022年11月1日現在の情報となります。

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