#03 未来へ、世界へ。
滋賀から羽ばたく匠の伝統工芸「中川木工芸 比良工房」

常識破りの斬新な形をしたシャンパンクーラーでも有名な「中川木工芸 比良工房」。この工房から、2020年に新シリーズが登場しました。

 

その名は『滋器 -shiki-』。今回は、この新シリーズのこと、そして比良工房の想いやこだわりなどについて、主宰の中川周士さんにお話を伺いました。

 

※本文章は2021年4月の取材内容を加筆・再構成したものです

 

新シリーズ『滋器』とは

滋賀県産の木を使った、読んで字の如く“滋賀の器”。

 

工房ではこれまで、上質な素材である木曽や吉野の木材を多く使ってきています。ところがこの『滋器』ではあえて滋賀県産の木材をチョイス。

 

「その特徴を生かしたモノづくりをしてみたいという想いから製作に至った」と周士さんは話します。

 

四季が一巡するごとに一つ刻まれる年輪は、木によって唯一無二。木目の出方などには気を遣い、滋賀の豊かな自然によって育まれた美しさを表現しています。

 

『滋器』シリーズは湖や森といった自然を感じられるデザインで、温かみがある中にも比良工房らしくシャープなイメージを残し、和風・洋風どちらでもお使いいただける作品です。

滋賀の木、人、器。つくること、つかうことが自然を守ることに繋がっていく—

『滋器』にはそんな想いが込められており、「県内外の方々に、日常的に身近に使うものから、このシリーズを通して滋賀の良さを認識してもらいたい」と仰っていました。

 

滋賀という土地

今回のシリーズでこだわったのは滋賀という土地。独立を機に周士さんは京都市内から滋賀の湖西に移られています。

滋賀県に移った理由として「一番は、湖と山に囲まれた地形に繊細さと雄大さを感じたこと」と周士さん。

 

さらには食べ物も良く、野菜や卵、肉といった、土や水に直結した美味しさを感じられるところ、そして、京都や大阪からのアクセスが良く、それでいて自然を感じられるところも素晴らしいとのことです。

 

「昇る朝日、夕焼け、大きな虹など、琵琶湖と比良山系があってこその美しい景色には何年たってもハッとさせられる。この環境でモノづくりをしたいと強く惹かれました。」

 

『中川木工芸』から『中川木工芸 比良工房』へ

『中川木工芸』の始まりは約90年前。周士さんから見ておじい様に当たる初代・亀一さんが京都の老舗木桶工房に入門し京都白川に工房を開きました。

 

現在、京都工房を継ぐのはお父様である2代目・清司(きよつぐ)さん。清司さんは2001年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています。

 

周士さんは、お父様のもと木桶職人としての修行を積まれ、2003年に大津市八屋戸にて『中川木工芸 比良工房』を開き、独立されました。

幼いころは、お父様の仕事を「楽しそうな仕事だな」と思っていたそう。工房で遊ぶことも多かったために仕事ぶりを目にする機会は多く、そんな中でもポジティブな印象を持っていらっしゃったようです。

 

中学生のころから簡単な手伝いを行い、本格的な修行は大学卒業後から。

 

「思春期の時期にはこのまま家業を継ぐことに反発もあったが、大学で彫刻を学んだことにより、伝統的な職人仕事にも惹かれるようになりました」

修業時代は、“仕事は量をこなして体で覚えろ”と言われていたそうですが、周士さんは「どうしてこうなるのか、こうしなくてはいけないのかを、理論的に検証したくなった」といいます。

 

着実に技術を身につけていく中で、「次第に自分のモノづくりをしてみたいと考えるようになった」ことも自然な流れだったのかもしれません。

 

お父様が重要無形文化財保持者の認定を受けるのがちょうどその頃。いろいろな状況が重なって、周士さんは独立をすることに決めました。

 

『中川木工芸 比良工房』のコンセプト

木桶の製作技法はおよそ700年前の室町時代頃に大陸から伝わってきたそうです。

 

『中川木工芸』は伝統的な木桶の製作技法を用い、京都の老舗割烹料理店や旅館などに長年愛され続けてきました。周士さんの工房もその流れを汲み、檜や椹、高野槙、杉など厳選された上質の和木を用いて美しい白木の木製品が数多く製作されています。

一方で、受け継がれてきた伝統的な木桶の製作技法を用いつつも、近年は他の技法では表現が難しいデザイン性に富んだ革新的な作品の製作にも挑戦。

 

日本国内のみならず海外からも高い評価を得ており、2011年以降、イタリア・フランス・イギリスなどでも展示会を開催しています。

 

脚光を浴びた、シャープで斬新なシャンパンクーラー

2010年、周士さんの代表作ともいえる楕円形のシャンパンクーラーが開発されます。

その当時の主流商品であった日本の伝統的な桶(おひつ、寿司桶、風呂桶など)は、日本人の生活スタイルの変化に伴い販売規模が縮小傾向に。

 

おじい様が修行を始めた頃には京都で250軒あった木桶屋も今ではたった4軒ほどとなり、「何か新しいものを作らなくては、木桶屋自体がなくなってしまう」と考えた周士さんは、2008年に新しいシャープな木桶を作るプロジェクトを開始。

 

10作以上の試作、期間にして2年の試行錯誤を重ねるもなかなかうまくいかず一度は諦めかけたそうですが、最後の最後に“発想の転換でとがらしてしまえ”というアイデアに行きつきます。こうして、楕円形の斬新なデザインをした『シャンパンクーラー Konoha(このは)』は誕生したのでした。

 

伝統工芸・桶づくりのこれから

桶を作る工程の一番初めは鉈(ナタ)で木を割ること。

 

「その際に見える、自然なままの木目に美しさを感じていた」という周士さんは、今後の作品構想として「木を割ったそのままの割れ肌を生かしたモノ作りをしたい」と語ります。

 

「割れ肌をそのままに作品として仕上げ、皆さまにも自然な木の美しさ、ダイナミックさを感じていただきたいと思っています」

同時に、次の時代を担う若い職人さんの育成にも携わる周士さん。

 

「伝統を守っていくためには、その時代に合わせた職人仕事をしていかないといけない。伝統に捉われすぎず、自分でデザインし、図面をおこし、製作して、販売していく—、そこまでの能力を培ってほしい」といいます。

 

変化を受け入れること、その時代に合わせることが、結果として伝統工芸としての桶づくりを守っていくことに繋がっていくのだと教えて頂きました。

 

『滋器』を通して生まれる風景

周士さんやお弟子さんの想いと滋賀の魅力が詰まった『滋器』シリーズは、ちょっといいもの、本物を使いたいという方にぴったり。

 

周士さんご自身も「“桶のものを使いたいけれど、どのように扱っていいのかわからない”というような、初心者の方の入門としても使っていただきやすい」と説明されます。

 

「桶や木の器をもっと身近に、日常的に使っていただけるようになってほしい。とにかく手に取って、木の温もりや、その中のシャープさを感じてもらいたい」

「お茶を飲むのか、ビールにするか…、ケーキを載せるか、それともおにぎり…など、そこからどんなシーンが生まれるのか、想像してもらえたら幸いです」

 

伝統工芸を、未来へ

テクノロジーの発達や昨今のコロナ禍など、生活様式がガラッと変わる中でも比良工房の桶づくりは変わらず続いていきます。

 

周士さんの“時代に合わせた職人仕事が伝統を守っていく”という考えからすると、むしろこういう世の中こそが、伝統工芸を見直す機会を生むのではないかというふうにも感じます。

 

革新的なデザインや機能的なデザイン、自然の美しさを生かしたデザイン、これらがまさに新しい価値となっていくのでしょう。

『中川木工芸 比良工房』と周士さんのお話を通して、伝統が受け継がれていくということの一部を垣間見ることができたような気がしました。

Information

中川木工芸 比良工房

滋賀県大津市八屋戸419(Google Map
TEL:077-592-2400
営業時間:月〜土 10:00〜17:00
定休日:日曜日
※土曜日に休業、日曜日に営業している場合もございます

ホームページ / Facebook / Instagram(工房) / Instagram(中川周士さん)

※上記は記事公開時点の情報となります。詳しくは施設HPや公式SNSにてご確認ください。

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