#11 地域愛と環境への配慮が育む。
大工が“本気で”つくった「七夕いちご園」

昼も夜も楽しめるイチゴ狩り、みなさんご存知ですか?“イチゴ狩りは日中に楽しむもの”、そんなイメージがここでは覆ります。

 

今回は滋賀県の北東部、米原市世継の「七夕いちご園」に伺いました。この地域には天野川が流れていて、近くの蛭子(ひるこ)神社は恋愛成就のパワースポットとしても知られるという、七夕伝説のある場所に位置します。

 

農業経験ゼロだった、大工さんが手掛けた高糖度イチゴ

2021年の年明けとともにオープン。「あまり生産されていない、なかなか食べられないような品種の生育に挑戦しながら、美味しさで満足して頂きたい。とにかくうまいイチゴを作りたいんです。」イチゴづくりについて代表の北村卓造さんはこう話します。

品種にもよりますが、ここで作られるイチゴは糖度が17度~20度近くに達するものもあり、市場に出回る多くのイチゴよりも甘いのが特徴。もともと理科が好きだったそうで、独自の栽培理論でもって糖度の高いイチゴづくりへの挑戦を続けていらっしゃいます。

 

なにより興味深いのが、このように甘くおいしいイチゴを作っている北村さんの本業が大工さんであること。代々大工の家系であり、同じく米原市に拠点を置く 匠堂合同会社 の4代目として地域密着型の工務店を経営されています。

「主に田舎の家づくりで、この地域の半分くらいの家は父が建てているんです。」

建築のノウハウを生かし、ここにある太陽光パネル付きのビニールハウスも、設計から施工までをご自身でなさったそうです。

 

ゼロエネルギー住宅ブランドである『未来笑家(みらいわらいや)』を立ち上げ、光熱費のあまりかからない住みやすい家づくりを目指す北村さん。「びわ湖のそばに住んでいるからか環境保全にはすごく興味があって、省エネルギー住宅をずっと作ってきました」と話します。住宅については今も日々研究中で、一部特許申請も行っているそうです。

 

では、そんな北村さんがなぜイチゴづくりに挑むことになったのでしょうか。

 

今から遡ること約5年、当時、この地域でも空いた土地に太陽光パネルを設置しないかという話が起こっていたそうです。そこで北村さんはやると手を挙げたそうなのですが、そのときは最終的に周囲の完全な賛同までは得られなかったといいます。

それでも、近隣の農家の方はみな高齢であり農業をやめたいと考える人が多く、太陽光パネルを置いてほしいとの声は少なからずありました。ですが農業をやめたいと話す方々も、みなさん本当は農業愛が強いことを北村さんは知っています。

 

地域のことがよく分かるからこそ、“太陽光パネルは置いてあげたいが、置くだけでみなさんが喜んでくれるわけではない”と考えた北村さんは、「パネルの下で野菜を栽培するような、ソーラーシェアリングができれば」という答えを導き出します。農業のことや環境のこと、未来を見据えた課題解決に向けて考え、粘り強く働きかけた末、ついには太陽光パネル設置の理解を得るところに至ったそうです。

 

実のところ「本来は、日本の低い食料自給率をあげるような、栄養価の高いものを作りたいと思っていた」と北村さん。ホワイトアスパラやグリーンアスパラ、トマトなども考えたが、栄養価や収益性、生育条件などを考えているうちに断念。いろいろと模索するなかで「食料自給率うんぬんのものではないが、みんな好きなものであるし喜んでもらえるのではないか」と、イチゴづくりを始めてみることにしたのだそうです。

 

新名物 “星空イチゴ狩り”

「七夕いちご園」という名前はこの地域に伝わる七夕伝説が由来。近くには実際に天の川(表記上は「天野川」)が流れており、すぐ近くにある蛭子神社は恋愛成就のパワースポットとしても知られる場所です。この伝説の記載は地域の古文書にも残っているそうです。

 

「はじめから名前は決めていて、天の川にちなんだ星空の名刺を作っていました」と北村さん。曇りが多い地域であることもあってハウス内にLEDランプを導入していたところ、ある朝、北村さんはひらめきます。

「LEDもついているし、夜もイチゴ狩りができるなぁ…と(笑)。イチゴ狩りには太陽のイメージがあるが、星空を想起させる天の川をモチーフにしているのでいいかも。」

新名物ともいえる“星空イチゴ狩り”は、ひらめきから誕生したのでした。

 

実際に“星空イチゴ狩り”の風景も体験させて頂きました。星に見立てた光をハウス内に投影すれば、そこはまるでプラネタリウム! 日中では感じることのできない幻想的な雰囲気があたりに広がります。暗さを補うためのランタンを持つことで、手元や足元を照らしながらイチゴ狩りを行うことができます。

 

ちなみにお客さんの層としては若い方を中心に、カップルや親子連れの方が多いのだそう。幻想的な世界観、そして「七夕伝説=縁結び」ということがここを訪れるカップルが多い理由かもしれないですね。また県内のみならず、名古屋、福井、遠くは大阪や神戸などからもお越しになられるようです。

 

2021年七夕にオープン、こだわりの詰まったカフェ

そしてもう一つ、2021年7月7日にオープンした「七夕いちごカフェ」も見逃せません。開放的かつ、内装はカラフルでオシャレ。大工さんのノウハウを存分に発揮した、北村さんこだわりのカフェとなっています。北村さんは「イチゴ狩り体験だけでなく、そのイチゴを使った美味しいものもぜひ食べてほしい」と話します。ここから見える、琵琶湖越しの夕日も最高です!

 

イチオシは、糸ピンスを使った“七夕いちごピンス”。糸ピンスとは韓国風かき氷のことで、糸状の氷を何層にも重ねて作るふわっとエアリーな食感のスイーツです。

これも美味しくイチゴを味わうためのこだわりだそうで、普通のかき氷に対して北村さんが感じていた「溶けたときの味や食感が今ひとつ」という感覚を解消するため、滋賀では珍しい糸ピンスを取り入れることにしたのだそう。

 

水で作った氷を削るのではなく、イチゴとよく合うミルクベースの素材を−35度で瞬間冷却して削って作ります。ミルクベースで作るので、溶けたときには“いちごミルク”へと変わり、「最後までうまいを実現することができた」と北村さんはいいます。なんと、7月のオープンから4か月で1,000人ほどが召し上がったそうです。

 

現在は他にも、“いちごクロッフル”や“ラッキークレープ”を提供。形の良いイチゴでなくても美味しく食べてもらえるようにと、工夫を凝らして随時メニューを考案中です。

 

不思議なご縁で育つ、甘いイチゴ

このイチゴ栽培によって「不思議なご縁でつながることができた」と北村さんは話します。

ビニールハウスの設計などイチからご自身で計画を立てていましたが、コロナ禍によって情報収集も滞り大変だったといいます。一時は専門書だけを頼りに始めようかと思っていた矢先、「年に1回しか連絡のない、ある農業従事者の方からたまたま電話が入った」のだそう。これが不思議なご縁の始まりです。

 

現状を伝えると、九州でイチゴづくりとカフェをしている方を紹介され、北村さんは早速宮崎県へ。そこでさらに紹介を受け出会ったのが、イチゴづくりのプロであり北村さんがのちに農業指導を受けた先生です。

宮崎でのイチゴづくりをやめ横浜へ行く予定だったという先生は、北村さんの取り組みに興味津々。一度お別れとなった後日、米原を訪れることとなります。北村さんは「前日は福岡で泊まる予定だったんですが、たまたま取りやめてちょうど滋賀に戻ってきたところに先生から『今から行っていいですか』と電話が入ってきました。1泊していたら滋賀にはいなかったし、来てもらえてもいなかった」といい、これも時の運、ご縁だったと振り返ります。

ここを訪れた先生は土地の風景・素晴らしさに感動、先生の奥様からの後押しもあり、住み込みでの指導が実現することに。こうして北村さんは約1年間、イチゴづくりのあれこれをプロから直接学ぶことができたのでした。

 

七夕伝説の縁結びパワーなのか、本当に奇跡的な出逢いによってこの「七夕いちご園」は成り立っています。今はコロナ禍で先送りになっていますが、いちご園での婚活イベントも計画中とのことです。

「縁があるようなものであることから、“イチゴ狩り婚活”もやってみたいですね。少子高齢化にも役立てたいし、また別方面ではビワイチの楽しみに活用して頂きたいとも考えています」イチゴを通して、新たな素晴らしいご縁がつながっていくといいですね。

 

環境保全・地域活性化を願う、イチゴと大工の“二刀流”

甘くおいしいイチゴを極めるため、北村さんは日々試行錯誤中です。「やっぱり太陽の力ってすごいんです。3,4棟目ではまた違った方法、生育条件などでうまいイチゴづくりにチャレンジしたいです」省エネルギー住宅をつくってきたからこそ、太陽光パネルによるクリーンエネルギー導入やソーラーシェアリングの発想も北村さんにとっては自然なことだったようです。

 

一方で、美味しいイチゴづくりには日々の栽培管理や農作業、お手入れも欠かせません。現在、栽培管理全般は娘さんが担当していますが、草引きなどの手入れについては地域の方々の支えがあってのことなのだそう。「農作業を地元の主婦の方や定年退職した方などにお願いすることで、地域活性化にもなればと考えています」と北村さん。地域密着で大工さんをされていることもあり、その想いは郷土愛にあふれています。

 

「完璧じゃなくてもいいから、魅力的なものになるように取り組んでいきたい」

今後については、未来を見据えた農業をしていきたいと北村さんは話します。「イチゴ栽培を通して技術を磨き、いずれは食料自給率を高める野菜づくり、次のステップに移行したいと考えています。今培っている技術を投入し、畑をやめたい農家さんにも納得して畑を貸してもらえるような農産物を作りたいですね。」

どんな農産物になるのかはこれからのお楽しみ。イチゴの次にまた新たな魅力的な名物・特産品ができるかもしれませんね!

 

加えて、「SNSやデータ通信技術も活用しながら、建築の仕組みの改革ができないかと考えています。それが結果的に、お客様の体にも家計にも負担にならない家づくりにつながっていくと思うんです」と、大工さんとしての目標も北村さんは教えてくれました。今後は、”大工が作ったイチゴ”をキーワードにしつつも、本業である大工の仕事も発信していきたいと考えているそうです。普段、Instagramでいちご園の告知をしているからこそのイメージですね。

インスタでもイチゴと大工の“二刀流”?ぜひお楽しみに!

 

「いつも自然体のままで、来て頂く方を待ってます(笑)」と笑って仰るように、今回お話を伺って、北村さんの肩ひじを張らない、ありのままといった佇まいがとても印象的でした。「とりあえずやってみることですね。やってみんと分からん」と、とにかく挑戦してみることの大切さを改めて教えて頂いたような気がします。あれこれ考えてチャレンジしていると、そのうちにいろいろな人のご縁が繋がってくるとも北村さんはいいます。

 

地域やびわ湖に対する環境保全、地域活性化を願う北村さんや地域のみなさんの愛情が育てる「七夕いちご園」。これからも甘くおいしいイチゴを極めるため、北村さんの挑戦は続きます。

 

Information

七夕いちご園

滋賀県米原市世継1476(Google Map
連絡先:info@tanabataichigo.com
営業時間:《日中》10:00〜17:00、《星空イチゴ狩り》18:00〜21:00最終受付(要予約)
定休日:不定休

ホームページ / Instagram

※上記は2022年4月1日現在の情報となります。

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