#05 サラダパンだけじゃない。
まちのパン屋さんで、あり続ける「つるやパン」
滋賀県民なら一度は食べたことがあるはず、「サラダパン」。ふわふわのコッペパンに挟まれた、たくあんの食感とマヨネーズとの味わいが絶妙です。名物「サラダパン」を生み出したのは、滋賀県長浜市にあるつるやパン。1951年に創業し、地域に愛され続けるパン屋さんです。
「木之本 つるやパン本店」と「まるい食パン専門店」にお邪魔して、つるやパンの歴史やパン作りへの思いについて、お話を伺ってきました。
風情のある宿場町で、3代目が営むパン屋
まず訪れたのは、JR木ノ本駅から徒歩7分ほどの場所にある「木之本 つるやパン本店」。
コッペパンの看板が目印です。木之本は、江戸時代から北国街道と北国脇往還が交わる宿場町で、旅人や参拝客で賑わったエリア。登録有形文化財にも登録されている商家の家並みに、昔の風情が感じられます。
店内に入ると、パン屋というよりもコンビニエンスストア。奥の工場で作られた、その日焼きたてのパンが店頭に並ぶだけでなく、おにぎりやドリンク、駄菓子や缶詰など豊富な品揃え。お腹がすいたらなんでも揃う、そんな地元に根ざした雰囲気です。
「戦後、法律を志していた祖父が学校給食制度が布かれることを知り、一念発起して、学校給食向けのコッペパンの製造をスタートしました。それ以降、父と叔父、私と従兄弟が引き継いで、現在3代目です」と有限会社つるや 専務取締役の西村 豊弘さん(以降、豊弘さん)は話します。
豊弘さんは本店を、従兄弟の西村 洋平さん(以降、洋平さん)は「まるい食パン専門店」の店長を担い、連携しながらつるやパンを盛り立てています。
なんと西村さんの本家は、かつて旅館業をされていたというこぼれ話も。「長濱や」という名前で、つるやパンから徒歩1分程度の場所にあったそうです。私たちと同じく旅館を営んでおられたご家系ということで、なんとなく親近感を感じます。
「まずい」と言ってもらえるのが、「サラダパン」ならではの個性
「『サラダパン』は、60年ほど前からある商品。当初は一日20個程度しか作らず、地域のコアなファンのために特別に作っているパンでした。開発したのは祖母。キャベツの千切りにマヨネーズを和えた、いわゆる『コールスロー』をコッペパンに挟むスタイルでした。
けれど時間が経つと、キャベツの水分がパンに染み出てしまい売り物にならないと、一度は販売中止に。でもどうにかしたい。そこで生まれたのが、キャベツをたくあんに変えるというアイデアだったのです」と豊弘さん。
コリコリした独特の食感と酸味の少ないマヨネーズを組み合わせた斬新な味わい。15〜20年前からメディアに取り上げられはじめ、知らず知らずのうちに人気商品となり、多い時では一日に2,000〜3,000個生産することもあるそうです。
「『サラダパン』の良さは、個性的なところ。私は好き、僕は苦手と好き嫌いが分かれるのが面白いんです。ずっとネタにされるパンでいてほしい。まさにうちにしかないパンです」と豊弘さんは微笑みます。会話のあちこちから、「サラダパン」への愛情が伝わってきます。
いつか「おもいで」になれる、まちのパン屋さんを目指して
「おもいでパン」という、つるやパンのキャッチコピーにも意味があるのだそう。
一度地元を離れ、東京で数年働いていた豊弘さん。仕事に追われる日々の中、地元では当たり前に食べていた「サラダパン」が、今の生活の中にないことに、ふと気づいたのだとか。
「地元にいた時は親の仕事に反発することもありました。けれどいざ離れてみると、いいパン屋やん、地域に根ざした羨ましい仕事やなと、素直な感情が胸に溢れてきたのです」
現在本店で作られているパンは、30種類以上。毎日ここで作られ、滋賀県内のスーパーや販売店に届けられています。
「近隣の高校にも出店販売していますが、その時に思います。いつかこの子らが県外に出る時に、ふと懐かしさを感じるパンになれたら。未来につながる思い出になれるパン。これが、“おもいでパン”というコンセプトに込められた想いです」
実は、「サラダパン」の陰に隠れがちですが、地元の人に人気なのは、まるい食パンの中にハムとマヨネーズを挟んだ「サンドウィッチ」なのだとか。小腹が空いたときに、手軽に食べられる日常的なパン。奇をてらわない素朴で生活になじむようなパンを作り続けたいと豊弘さんは話します。
「地域で求められないものが、他の県で売れるわけがない。地域の人に喜ばれる、まちのパン屋であり続けることが、僕たちの大きな目標です」
食パンでワクワクしてもらいたい。2号店「まるい食パン専門店」
続いて訪れたのは、2018年にオープンしたつるやパン2号店となる「まるい食パン専門店」。木之本本店から車で約30分、JR長浜駅から徒歩約7分の場所にあります。
店内ではまるい形の食パンのみが販売されており、テイクアウトに加えてイートインも可能。目の前でサンドをしてくれるのが特徴です。サンドウィッチメニューには、「焼きサバ」「みたらし」「ホワイト」など、どんな味なの!?と、ワクワクするようなメニューが並んでいます。
案内してくださったのは、店長の洋平さん。本店の豊弘さんとほぼ同時期に、県外から地元である滋賀に戻って来られたそうです。
「『サンドウィッチ』を気に入ってくれている地元の人から、まるい食パンだけそのまま食べたいという声があったんです。日常に寄り添う“まちのパン屋”でありたいつるやパンとして、生活に溶け込んでいる『食パン』を作ってみよう。せっかく作るなら、つるやパンになじみのある、まる形でいこうとなりました」と洋平さん。
子どもから大人まで安心して毎日たくさん食べられるように、塩分濃度は控えめに。試行錯誤の上、そのまま食べても、サンドウィッチにしても美味しく食べられる食パンが完成しました。ふわふわ柔らかい、まるくて愛らしい食パンは、みんなの人気者です。
地域と一緒に育っていくパン屋があってもいい
まるい食パン専門店では、遊び心がテーマ。これまでに生み出したサンドメニュー数は、50種類以上だといいます。
「柔軟な思想で、クスッと笑えるようなメニューを提供していきたいですね。一番人気のメニューは、『ソース焼きそば』。滋賀県民にはなじみのあるサバを使った『焼サバ』や祖母が当初作ったサラダパンの具材を再現した、『サラダ』もぜひ食べてみてください」
特徴的なのは、地域の人たちとコラボレーションサンドメニュー開発を積極的に行っていること。長浜小学校の小学6年生とのワークショップでメニュー開発をした時に生まれたのは、「牛丼サンドウィッチ」。自分たちの作ったメニューに子どもたちも大喜び。
2021年4月には、近所の商店街との企画も実施。お肉屋さんのコロッケを使ったコロッケサンドや、スーパーの惣菜を使った惣菜サンド、地元の醤油蔵の醤油と団子を合わせた醤油団子サンドなど、まさに、この地でしか食べられないオリジナルサンドです。
「地域に根ざした商売がしたいという想いが、徐々に叶っている気がします。通学や通勤途中に、ふらっと立ち寄ってもらえるようなパン屋でありたい。今年で創業70年目。とりあえず100年を目指して、この地でやっていきたいです」と洋平さん。
地域と生活に寄り添いながら、暮らしに溶け込む「つるやパン」。自分の暮らす町に、顔なじみのパン屋があるって、誇らしいことかもしれませんね。ちょっと羨ましくなりました。
Information
つるやパン本店(木之本)
滋賀県長浜市木之本町木之本1105(Google Map)
TEL:0749-82-3162
営業時間:月〜土8:00〜18:00、日・祝9:00〜17:00
定休日:無休(臨時休業あり)
ホームページ
まるい食パン専門店(長浜)
滋賀県長浜市朝日町15-31(Google Map)
TEL:0749-62-5926
営業時間:月〜土8:00〜17:00
定休日:水曜日
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