#56 山肌から突如吹き出す白い煙!?その正体は…
自然が生み出す異空間「河内の風穴」
犬上郡多賀町。多賀大社があることで知られるこの町には、日本屈指の鍾乳洞があります。その名は「河内の風穴(かわちのかざあな)」。
55万年前にできたといわれる、自然が作り出した神秘。山中にぽっかり開いた滋賀県唯一の観光洞で、ちょっとした探検気分を味わってみませんか?
まさに「風穴」。関西最長の洞窟へ、いざ!
多賀町の中心部からいうと、「河内の風穴」は北東の方角。鈴鹿山脈の山々に向かって車を走らせます。源流を霊仙山(りょうぜんざん)に持つ芹川を遡上するように、県道17号線で山を分け入ることおよそ約15分で到着です。
行ってきたのは残暑厳しい8月下旬。今回は風穴を管理する「河内観光協会」の菅森さんにお話を伺いながら、特別にガイドをしていただきました。
料金所を過ぎると、風穴までは沢に沿って遊歩道を登っていきます。森と清流に囲まれた森林浴。夏の暑さは感じつつも、一帯は明らかに涼しさを感じます。あとあと分かることなのですが、この清流を成しているのは、目指す鍾乳洞の地下を流れてきた冷たい水だったのでした。
「河内の風穴」の総延長はなんと10km以上!関西では最長、日本でも4番目に長いとされる鍾乳洞ですが、その全体像は今もなお解明されていないのだといいます。
鈴鹿山脈北部に位置するこのあたりは石灰岩質なのだそうで、この自然洞窟は、水の力で少しずつ、それはそれは長い年月をかけてつくり出されました。
汗をかきかき、マイナスイオンを感じながら約10分ほど歩いたように思います。「ここの入口が1つの魅力です」と菅森さんが言うように、到着した風穴の入口を前に、私たちは驚きを隠せずにいました。
写真ではちょっとわかりにくいかもしれませんが、なんと、山から白い煙状のものが吹き出しているのです!こんな光景、見たことあるでしょうか!?
「ここまで登ってきて、きつい目に遭われて。でもここまで来たら皆さん、『わー!』って言われるんですよ(笑)」
そしてなんといっても、先ほどまでとは次元の違う、もはや冷蔵庫並みの涼しさがここにはありました。それもそのはず、入口からは止めどなく流れ出る冷たい空気が。洞窟内外の気温差などにより冷風が自然と吹き出す…これがまさしく、「風穴」と呼ばれるゆえんなのです。
小さな入口の先にある、大きな地下空間
風穴の中の気温は、年間を通して12度ほどに安定。夏は涼しく、冬は暖かい。つまり今回のような夏場であれば、中と外で軽く20度ほどの寒暖差があるということになります。
さて、ではいよいよ内部に入っていきます。入口は1.5mほどでしょうか。大人は少しかがんで入らないといけないくらいの小さい穴です。
くぐりぬけるとすぐ、先ほどまでの蒸し暑さが嘘のようなひんやりした空間が広がります。入口から少し下った広大な場所、ここは大広間です。
「ゴゴゴゴ…って少し音がするんですけど、ちょうどこの下あたりに地下水が流れるところがあるんですよ。山の方から水が全部地下に流れてきますから」
高さ・幅とも20mほどの場所。もちろん人間が掘ったわけではなく、自然にできたものです。
「橋がかかっているところにちょっと穴が空いていて、台風とか集中豪雨が来ると、そこから水がバーっと出てきます。それで、ここは満タンになりますから。来るときに、谷を見て歩いてきたでしょう?あの水は、ここの地下から全部流れ出ているんです」
この大広間では、薄暗い洞窟であることを生かし、2023年から11月ごろにライトアップを開催。カラフルな光に音響も入れ、普段なかなか感じられない、より神秘的な空間を楽しむことができます。
ライトアップ期間中にはスポットで、学芸員による解説付きのガイドツアーや、洞窟内でのコンサートを実施したこともあるのだとか!
未解明の風穴。奥深き探求はまだまだ続く
「見ていただいたら分かると思うんですけど、あそこに筋が入ってるでしょ?フローストーンというんですけど、水滴とかがずーっと流れていって、あれが最終的には鍾乳石になるんですよ」
菅森さんが指さす先には、水が流れるような模様の付いた石が。地下水に溶けて流れる石灰分がだんだんと結晶化することでこのような石になります。ここがちょうど、したたる水の通り道になっていることがうかがえます。
「昔はもっと鍾乳石とかあったようなんですけど、その時はあんまり管理がされていなくて、来た人が持って帰っているみたいです(笑) まだ電気も付いていないころで、ここに来るとき松明で入っていました」
少し先に進むと、2階へ続くはしごのある場所へ。が、残念ながらここから先は、現在見学のできないエリアです。この目で見ることはできませんが、菅森さんはこれより奥のエリアについて教えてくれました。
「この上にはシアターホール。その奥に行くと、ドリームホールっていう、もっと大きい空間があるんです。さらにどんどん進んでいくと地底湖があるんですよ。水深は10m以上あるかなーっていう話」
この先を探検したことは?と問えば、「いや、」と話し始める菅森さん。これ以上は、一般の方ではなかなか行き来するのも難しい領域だといいます。
「そこからは僕らも行ったことないんです。普通に歩いてススッとは行けないのでね。洞窟探検を全国的にやっているクラブがあって、そういう専門的な人たちが学術調査に入っているんです。通常5年くらい調査したら終わるみたいなんですけど、また見つかったって言うてるから、河内の風穴にはまだ新洞があるようですよ。一直線でなくて枝分かれしてますし、それの延長で10kmあるということですから」
経験者でも迷うことがあるというほどに複雑な洞内。度重なる調査を経ても全貌はいまだ解明できず、文字どおり奥深い世界がそこには広がっているようです。
一方で、菅森さんのような地域の人にとってこの風穴は身近な場所でもあり、子どもの頃には遊び感覚で、数人でやってきては探検をしていたそうです。子どもたちだけでこんなところを探索していたなんて…!贅沢なような、怖いような、なんとも刺激的なお話です。
童心に返り、55万年の時を感じて…
“洞窟といえばコウモリがいっぱい!”というイメージもありますが、意外にも、訪問時にその姿を目にすることはありませんでした。(かといって、全くいないというわけではありません)
菅森さんによれば、立ち入りのできない奥のエリアには、やはり洞窟ならではの生き物がいっぱい棲んでいるのだということです。
「奥のほうにね、真っ暗なところにいてるから。目がないような生物は、その代わりに触角やヒゲが長い。もちろんコウモリもいますんで。世界でここにしかいない生き物がいるとも聞きますね」
専門的な調査は現在進行形。これから先に新種生物が発見される可能性があると考えると、なんだか子どもの頃のような心躍る感情が沸き起こってきました。
ふと、洞窟内にぶら下がった温度計を発見。気温はなんと10度を指し示していました…。
「1時間もいてたら、半袖じゃおられんくなるよ」と笑う菅森さん。外は真夏なのにもかかわらず、自然でここまで冷えるなんて改めてすごいことだと感じます。
2,30分あれば十分見て回れますが、汗をかいて登ってきたあとでは急に体が冷える恐れがあります。感覚的には冷蔵庫の中のような気分なので、暑い時期の来訪であっても、念のため羽織れるものが1枚あれば安心かもしれません!
以前は個人で管理されていたというこの風穴。今や『滋賀県指定天然記念物』『日本の重要湿地500』にも選定されるほど大変貴重な存在となりました。
「大昔は海の底やったって言われるんです。さっき渡ってきてもらった橋のところには、化石もありますから。まぁ55万年前とかいうことなんですけど、もう想像もつかへんな(笑)」
湖東の山中にある、不思議で神秘的な異空間「河内の風穴」。大雨で水量が増したときや、冬場の大雪以外は年中無休ということなので、ぜひ一度、少年少女の気持ちで訪れてみてはいかがでしょうか。
おすすめの時期は、…やっぱり夏ですかねえ!
Information
河内の風穴
滋賀県犬上郡多賀町河内(Google Map)
営業時間:9:00~17:00(受付 ~16:00) / 夏期 9:00~18:00(受付 ~17:00)
定休日:大雨・積雪以外無休
TEL:0749-48-0552
滋賀県観光情報ページ