#14 実験から生まれる陶器ジュエリー。
「ayako.ceramics」小川文子さんのものづくりとは?

陶器をどう魅せるか?素材感をどう演出するか?

2019年に滋賀県へ移住し、自宅兼アトリエで制作活動を行う陶芸家の小川文子さん。陶器ジュエリーを中心としたライフスタイルブランド『ayako.ceramics』には、色味や材質を大切にする彼女の感性が落とし込まれています。「作品の全ては、日々の暮らしから生み出される実験的なもの」と話す小川さん。ものづくりへの思いを伺うべく、アトリエにお邪魔しました。

 

生活と制作が、一体になった感覚がある

自宅兼アトリエにお邪魔したのは、春の終わりのうららかな午後。朗らかな笑顔で出迎えてくださった陶芸家の小川文子さんは京都出身。芸術大学で陶芸に出会い、現在まで陶芸の世界に魅了され続けています。

 

「作品に使っているのは、滋賀県信楽の土。大学時代から変わらず使わせていただいているので、これもご縁かもしれませんね」。そんな小川さんが、結婚を機に旦那さんの地元である滋賀に引っ越してきたのは、2019年秋。新居となる空き家の隣にあった自転車置き場を、アトリエに改良しています。

 

「引越した当初は、まだ京都で共同アトリエを借りていたのですが、2019年からのコロナ禍で通いにくくなりました。制作をしたくてもできないフラストレーションがたまった時期も長かったです。現在のアトリエは、ほぼ1人でDIY。漆喰を塗ったり、シンクを設置したりしながら、無事に完成したのは2020年秋。いつでも自由に場所や器具が使えるので、より制作に打ち込みやすくなりました」

 

粘土を捏ね、成形し、乾燥させる。半乾きの状態のまま、高台の部分を削り、また乾燥。800度の電気窯で素焼きをした後、絵を描いたり、釉薬を掛けたりして表面をコーティング。時間をおいて1230度で焼き上げ、仕上げをして完成。一つの作品にだいたい半年程度時間を掛けながら、多数の細かい工程が積み重なって、ひとつの作品が完成します。

 

自宅の隣にアトリエがある暮らし。そのことで日々の中に陶芸がぐっと入り込んできた感覚があると小川さんは話します。

 

「陶芸って、細かい工程の積み重ねなんです。例えば、粘土を練るだけ、器を乾燥させるためにひっくり返すだけ、など作業時間としては10分程度で終わることも多くて。アトリエが近くなったことで、洗濯機を回した後にちょっと作業をやりにいく、その後で家に戻って食器を洗う、といったような隙間隙間に陶芸ができる生活になりました。まさに生活と制作が一体になった感覚。他のアートと比較しても、もともと陶芸って生活に根ざした行為なのだなと実体験を持って感じています」

 

全て実験。「どうなるんだろう」の先が見たいから

彼女の手がけるライフスタイルブランド『ayako.ceramics』は、陶磁器をベースに、さまざまなデザインや技法、異素材との組み合わせから生まれる作品を提案しています。ものづくりのベースにあるのは、「実験」だと小川さんは話します。

 

「数年前までは、アクセサリーをつけた時の陶器と肌の対比や、陶器とガラス素材など異素材同士を組み合わせるなど、陶器の表面が魅力的にみえるような作品を好んで制作していました。あるとき、釉薬を掛けた丸形の陶器をそのままぶら下げて焼いてみたんです。そうすると、釉薬が落ちる手前に固まった形が、指輪のような形になったんです。これはおもしろい!と。それ以降、素材そのものや、釉薬を掛けたときに陶器がみせるニュアンスや形の変化そのものに興味が湧いています」

 

日常的に料理をする上でも、たくさんのヒントがあるといいます。この調味料を加えたらどうなるか?温度を変えてみたらどうなるか?など、物質が変化する様子が面白いと小川さん。「陶芸と料理は重なるところが多いかもしれません」。

変化させる行為そのものを楽しんでもらいたいという思いから生まれた、CERAMIC JEWELRY “SMOLT”。ジルコンサンドペーパー(紙やすり)が付いており、自分で磨いて仕上げるジュエリーという発想豊かな作品です。「磨くと少しずつ風合いが変わっていきます。この磨き工程が一番面白い。私だけが独り占めしてしまうのがもったいない、という思いがアイデアのベースになっています」。

 

最近では、金継ぎにも力を入れており、日本各地での金継ぎワークショップも実施。きっかけは、金継ぎと陶器を組み合わせてみようというアイデアから生まれた陶器アクセサリーでした。

 

「古道具などがもともと好き。古い器が直されて使われていることも知っていました。欠けてしまった器が、2時間3時間手をかけて金継ぎをすることで、物としての輝きを増す。窯から焼き上げた生まれたてのものとは違います。一度輝きを失っていたものが、生き返るということを新鮮に感じました。また金継ぎワークショップをすることで、ジュエリーを直してもう一度使いたいというお客さんとの出会いもありました。作った作品に、もう一度命を吹き込める。こんな循環ができることは、焼き物を扱う者として喜びを感じています」

 

自分らしく、陶芸と真っ直ぐ対峙したい

小川さんの肩書きは、「陶芸家」。けれど近年まで、陶芸家と名乗ることに抵抗があったそうです。

「器を作っていないのに、陶芸家と名乗ってはいけない気がしていました。けれど、自分らしさを発信していかないと誰にも届かないと思うようになり、今では私の視点から捉えた陶芸の側面を素直に作品化しています。陶芸の魅力はさまざま。私らしく伝えていきたいです」

 

滋賀県彦根にアトリエを構えるガラス作家 周防苑子さんが手がける「ハコミドリ」と小川さんとのコラボユニット「KILNOUT(キルンナウト)」では、廃端ガラスを融かし込んだ食器プロダクトを制作。温度によって予想不可能な色変化を見せるガラスと、陶器の組み合わせにチャレンジしています。

2022年春からは、初めて花器の制作もスタート。またその他にも、旅先の土地の砂を信楽の土に混ぜた素材作りも、実験的に試みている最中なのだとか。

 

「日々実験が楽しい。フットワーク軽く、ものづくりの発信と実験を繰り返しながら、陶芸というものの魅力を探っていきたいです」

 

行為から起こる変化。日常の中で生まれるアイデア。それらを見逃さず、創作に柔軟に取り入れ陶芸に落とし込んでいく。ただの焼き物オタクですよ、と笑う小川さん。楽しみながら積み重ねる実践こそが、彼女のものづくりの原動力になっているようです。

 

Information

ayako.ceramics

連絡先:ayako.ceramics@gmail.com

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